約束 6








     『。約束しよう。


     競争だ。お互いに、夢を掴もう。


     その時。気持ちが変わってなければ。


     早く夢を掴んだ方が迎えに行く。


     迎えを受け入れるかどうか。


     それは、心のままに。


     曖昧な約束だから・・・守れなくてもいい。


     だが、


     俺の気持ちは変わらない。


     俺が先に夢を掴んだら・・・必ず迎えに行くから。』





クリスマスイブの夜。
手塚が口にした約束は、の未来に猶予を与える・・・ゆるやかな約束だった。


それが彼の精一杯なのだと。
それが彼の優しさなのだと。


は理解して。
泣き笑いだったけど。
微笑んで頷いた。





『約束』は、受け取った。



自分を信じて・・・手塚を待ってみよう。
彼を信じて・・・待ってみよう。


どんなに長い月日が流れようとも。
私の夢をかなえることに全力を注ごう。


その先には。大切な『約束』が待っているのだから。



『約束』はの心を強くした。










年が明けてからの3ヶ月。
もう、が手塚の前で泣くことはなかった。


一日、一日。
何事もなく、平凡に過ぎて行くように見えた。


穏やかな微笑と、他愛ない会話。
ずっと二人は一緒に過ごしていられるような錯覚を覚えるほど静かな時間を過ごす。



一番星を見つけては『夢が叶いますように』と願いをかける
その横顔を記憶に焼き付けながら、共に願うのが手塚の日課になった。



愛しいほどの時間は確実に過ぎていく。



時に、抑えきれない気持ちが沸いてきて。
手塚は力任せにを抱いてしまう。


それにさえ。は微笑んで、彼の背中に腕をまわした。



いつも微笑んでいる
ふとした時に瞳を切なげに揺らすことはあっても、笑顔を絶やすことはなかった。



、無理して笑わなくていいんだ。』


『無理なんて・・・してないよ。今が、幸せだから。
 手塚君のそばにいられるのが嬉しくて・・・笑顔になるの。』



そう言って、やっぱりは微笑んだ。
自分を気遣って笑顔を残そうとしている気持ちが分かるから切ない。


何故なら。
がバイトをしている本屋のガラス越しに見つけた横顔には笑顔がなかった。


懐かしむような。何か痛みに耐えているような顔で本をめくる横顔。
が手にしていた本は。自分がこの店に来て、最初に買った本だった。


ガラス戸を引けば、顔を上げたがすぐに笑顔になった。


だが、手塚の心の中。
さっき見た、の儚い立ち姿が残っている。



その哀しい表情を一瞬で消してしまったの優しさと強さ。



そんな姿に触れるたび、手塚も心を強くした。



一日でも早く夢を掴んで・・・約束を果たす。



想いは日々、強くなっていった。










冬が過ぎ。春が訪れる。
風が暖かくなり、道端のタンポポが咲き始める頃。



卒業式があった。



卒業生代表として答辞を読む手塚の声がホールに響く。
さすがに・・・も涙を止めることができなかった。



ずっと、マイク越しの手塚の声を追っていた片想いの頃を思い出した。
今は耳元で優しく名前を呼んでくれる。


想いが届くなんて。夢でも起きないと思っていたのに。



本当に幸せだった。
何度も言うけど。
好きになってくれてありがとう。とても、嬉しかった。


ずっとずっと傍にいて欲しかったけど。
前に進む手塚君が好きだから。


どんなに遠くなっても。
私は想ってる。応援してる。



そして。約束を果たす日が来ることを信じてる。





!」
「手塚君。」



待ち合わせたテニス部の部室前。
沢山の人に渡された花束に顔を埋めるようにして手塚は走ってきた。
は少ない荷物と卒業証書を手に微笑む。



「すまない。待たせた。」
「ううん。もう、いいの?挨拶とかは?」


「ああ。先生方への挨拶は渡米前に改めて行くつもりだから、今日はいい。」
「そう。」



渡米・・・という言葉に。一瞬だけ、の表情が動いた。
手塚はそれを見逃さないで、慰めるようにの髪を撫でる。


柔らかな髪。この髪に、残りの数日で何回触れられるだろう?


締め付けられるような思いでを見つめる。
も心地よい手塚の手の感触に、胸が張り裂けそうだった。



「あ、手塚。やっぱり、ここか。写真を撮らないか?」



やってきたのは大石だった。
あ、邪魔したかな?と、焦る姿に笑顔がこぼれる。



「いや。大丈夫だ。」
「うん。写真、とって来て。待ってる。」



二人とも。内心・・・ホッとしていた。
お互いに、あまりに辛すぎた。


は手塚の胸に縋って泣いてしまいそうな自分を抑えることができたし。
手塚は『行くのをやめる』と言ってしまいそうな自分を叱咤した。



「あ、良かったらさ。さんも一緒にどうかな?
 二人の写真も記念に。不二が撮ってくれるから、焼き回しして渡すよ。」



大石の提案に、二人は視線を合わせて頷いた。



テニスコートのフェンス前。
賑やかなテニス部のメンバーが並んで写真を撮る。
そんな姿を少し離れた場所からは見ていた。


持っていてくれ・・・と渡された手塚の荷物を抱きしめて。
気心の知れた仲間達に囲まれた手塚の顔を見つめる。


いい表情をしている。


は瞬きをする時間も惜しんで、ずっと恋人の姿を追っていた。



最後に、不二に手招きされては手塚の隣に並んだ。
周囲のテニス部員達がひやかして口笛を吹く。


それでも手塚は平気な顔をして、
恥ずかしげに少し距離を置いて立つの腕を引いて近づけた。
腕を触れ合わせて立つ二人。



「手塚、顔が怖いよ。笑って。」



不二がリラックスさせるように笑いながら、カメラのピントを合わせている。
ゲラゲラと周囲から笑いが零れて、手塚はひとつ溜息をついた。



「はい、撮るよ。さんも、笑ってね。」



春の風か足元から優しく吹いてきた。
どこからか甘い花の香りがして、ちら・・・と横に立つ恋人に視線を投げれば。
しっかりと視線が合う。



クス・・と微笑みあって。



それから、不二の向けるレンズに向いた。





好きだ。





この想い。ずっと・・・お前の傍にあればいい。





シャッター音を聞きながら。
手塚は強く願った。




















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