お題 『より道ついでに会いにきた』 2
「君がいると部活の邪魔なんですよ」
呼び出された部室の裏で、木手に正面から言われた。
父の仕事の都合で東京から沖縄に転校し、友達に誘われて始めた男子テニス部のマネージャー。
力仕事の多さと遠慮のない部員たちの傍若無人さに、私を誘った友人は早々に辞めてしまった。
私も辞めたかったのだが、友人に先を越されてタイミングを逸してしまう。
だが女子マネージャーが一人になると、途端に部員たちが私に優しくなった。
辞められたら困るという意識が働いたのだろうか。
はじめはツンツンしていた平古場君が気軽に声をかけてくれるようになり、
それに続いて知念君たち強面のメンバーとも打ち解けられるようになった。
やっとマネージャーの仕事が楽しくなってきたというところで、
木手の呼び出しを食らって言われたのが『君がいると部活の邪魔』だった。
もちろん私は部活の助けになることはしても、邪魔になるようなことをした覚えはない。
女子マネージャーを受け入れたのは木手だったはずなのに、彼は私に冷たかった。
「木手は誰にでも、ああなのさ。やぁが気にすることないさ」
そう平古場君たちには慰められたが、
訳もなく冷たくされることに慣れない私は誰より木手が苦手だった。
「邪魔って、私が何をしたって言うの?ちゃんと説明して貰わないと納得できない」
眉ひとつ動かさない木手は本当に怖かった。
テニスも強いが、武術は更に凄いらしいと聞いたことがあったし
立っているだけで醸し出す威圧感といったら、とても高校生とは思えない。
口答えはしたものの、私の膝は震えそうになっていた。
木手が大きな溜息をついた。
そして心底呆れたように私を見下ろす。
「君は無自覚ですか。だったら尚更しまつが悪い
ハッキリ言わせてもらいましょう。君が誰かれ構わず気のある素振りを見せるのが迷惑なんです」
一瞬は何を言われたのか分からなかった。
そして言葉の意味を理解した時、唖然とした。
「き、気のある素振りって何?そんなことしたことない」
「君にソノ気がなくても、部員たちにはそう見えるってことですよ」
「そんなこと」
「君のせいで部員たちの集中力が散漫になるんです。立派な迷惑だと思いますが?」
そう言って、木手はメガネを人差し指で押し上げた。
思いもしない言葉だった。
部員の皆たちとも仲良くなれて、ただ楽しいと思っていたのに。
「私はそんな気なくて・・・だったら、どうすれば」
混乱した私は冷たく見下ろしてくる木手から目を逸らして俯いた。
こんな理由でマネージャーを辞めなくてはいけないのだろうか?
「解決する方法がないわけじゃない」
頭上から降りてきた言葉に顔をあげた。
いつのまにか直ぐ傍まで来ていた木手が組んでいた腕を解く。
間抜けにも私は『解決する方法』に気を取られ、伸ばされてくる手に気付くのが遅れた。
あの時も名前を呼びかけたが、音にならなかった。
強引に引き寄せられた腕の痛みと初めて感じる唇の熱に頭が真っ白になる。
我にかえって抵抗したが、木手はビクともしない。
それどころか逃げようとすればするほど、執拗に追い詰められ唇を奪われ続けた。
勝手に涙がボロボロと流れて、怖くて怖くて堪らなかった。
本当は僅かな時間だったのだろう。
長くて息もできない時間を経て、やっと解放された時・・・木手は笑った。
「君が俺のものになれば解決するんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、私は木手の頬を叩いていた。
なに言ってるんだ、このヤロー!
私のファーストキスを返せ!!
涙を滝のように流しながら、声にならない怒りに震える。
ずれたメガネを直し口元を押さえた木手は、何故かそれはそれは楽しそうに笑っていた。
鉄仮面が腹を抱えて笑う姿。それも女に頬を叩かれ笑っている。
「なに笑ってるのよ」
「思ったとおりですよ」
顔をあげた木手と視線があった。
柔らかく細められた瞳に鼓動が反応する。
見たこともないような微笑みは木手を少し幼く見せて、何故かそれ以上の文句が出なくなった。
「君みたいな女には、俺ぐらいじゃないと付き合えませんよ」
そこでやっと気がついた。
木手は私を欲しがっているのだと。
そこから私は木手に囚われてしまったんだ。
より道ついでに会いにきた 2
2008/10/25
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