You belong to me. 2












「あ・・越前君、ネコの毛がついてる。」


「どこ?」
「肩のとこ・・」



昼休みの図書室で貸し出しの当番をしているときに気がついた。
つまらなそうに頬杖ついてる越前君の肩のあたりに、白っぽいネコの毛がついてる。
教えてあげたのに越前君は払う気もないみたいで、ジッと私を見る。
困っていたら「とってよ」と簡単に言われてしまった。



ヤダ、また赤面しちゃいそうなのに。
緊張しつつ、手を伸ばして彼の肩についてるネコの毛をとってあげた。



「ほら、ね」
「ああ、うちのネコ。出掛けに甘えてたから。」


「越前君もネコ飼ってるの?私も・・飼ってるの。まだ子供だけど。
 甘えっ子でね、私も制服に毛がついちゃって困ってる。」


「ひょっとして・・・学校で拾った?」
「なんで知ってるの?」



越前君は私の質問には答えずに可笑しそうに笑う。
笑顔にドキドキしちゃってそれ以上は聞けなかったけど、その日から時々ネコの話が出来るようになった。


越前君、ネコがすきなんだ。
見てみたいなって言ったら、ネコの写真を持ってきてくれた。
名前は『カルピン』だって。面白い名前。


二週間に一回の貸し出し当番が待ち遠しい。
越前君と話をするたび、ほんの少しだけ彼に近くなった気がして嬉しかった。
それだけでも、私にとっては幸せ。



「ね、のネコは何て名前?」
「え・・・聞くの?」


「なに?聞いちゃいけない名前?」
「あんまり言いたくないんだけど・・・」


「そう言われたら余計に聞きたくなる。」
「人には言わないでね。私がつけたんじゃないの。お姉ちゃんがつけてね・・」


「前置きはいいから」


「・・・手塚クン」
「まさか、部長?」


「お、お姉ちゃんが手塚先輩のファンで、
 その・・ネコを飼ってもいいって賛成してもらうのに・・どうしてもって。仕方なく・・・」


「待って。じゃあ、は手塚部長と一緒に寝てるわけ?」
「違う!手塚クンっていう名前のネコと一緒に寝てるの!」


「ふーん」
「ふーんって、だから言いたくなかったのに。」



越前君がソッポを向いてしまった。
やっぱり尊敬する手塚先輩の名前をネコにつけてるなんてイヤなんだろうな。



「あの・・・ゴメンね」
「なんで謝るの?」


「尊敬する先輩の名前、つけちゃって」



越前君が私を見て目を丸くする。
何か変なこと言っちゃった?


クッと越前君が肩をすくめた。
そして、スッと伸びてきた大きな手が私の頭をポンと叩く。



って、可愛いね。」



初めて名前を呼ばれた。










        * * * * *










図書委員は面倒でしかないけど、ニ週に一度の貸し出し当番は別。
と狭いカウンターに並んで作業。
作業してるのは殆どがで、俺はハンコを押しているだけど楽しい。


近くに居ると、が動くだけで柔らかな甘い香りがする。
あっちに居る時も周囲には女のコがいたけど、みたいに優しくて甘い香りをさせてるコはいなかった。
日本人とアメリカ人との違いと言われればそれまでなんだろうけど、その甘い香りが酷く俺をひきつける。



ある日、とネコの話しをした。
肩についたカルピンの毛を取ってもらい赤面するを内心で楽しんだ後、
例の子ネコがの家にいることを知った。


拾って帰ったのがらしくて笑えば、
キョトンとした後に赤面して恥ずかしそうにするから、ちょっとトキメイタ。



親バカみたいでイヤだったけど、が見たがるからカルピンの写真を見せてやる。
はじめは俺を前にするだけで緊張してたが、徐々に打ち解けてくるのが嬉しい。
表情も明るくなって自然な笑顔を見せるから、時折こっちの方がドキッとして挙動不審になったりする。



あ、これ。
結構、真面目にキテルかも。
そう思い始めたときには、視線はいつもを追っていた。



にしても、が飼ってるネコの名前が手塚部長の名前だったのは衝撃だった。
その前にネコと一緒に寝ているの・・と悩ましい話を聞かされた挙句に『手塚部長』だ。
どこまでいっても目の上の何とかっていうか、なんかムカつく。



は何を勘違いしたのか、俺に謝ってきた。
何かと思えば、尊敬する先輩の名前をネコにつけた事で俺が不機嫌になったと思ったらしい。



ホント困ったみたいな顔をして上目遣いに俺を見るから、なんかもういいかって思った。
なんなら後でネコの名前を変えさせればいいや。



とにかく可愛いんだけど。
ちょっと見当違いなのも可愛いよ。



意思を持ち伸ばした手で、の頭を軽く叩いた。



いいよ、俺のものにしてあげる。
まずはね、名前から。



って、可愛いね。」



大きな瞳が落ちそうなほど丸くなってる。



「俺の名前。リョーマって、呼んでいいから。分かった?。」



コクっと小さく頷いた、
ぎこちないうえに真っ赤だね。


こんなことで驚いてたら先が大変だよ?
俺が本気で勝ちに行ったら容赦はしないんだから。


心の中で宣戦布告。
後は俺のペースで、どんどん押していこう。




















You belong to me. 2 

2006.09.25




















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