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火災調査規程-03

                                                      2010’05/15
                       「第3章 調査業務処理の基本」とその解説
              
第3章 調査業務処理の基本
                          この第3章は、火災調査を実施する上で必要とされる共通的な基本事項を定めている。
第1節 調査実施上の通則
(主任調査員等の責務)
第31条 主任調査員は,調査業務を適正に推進するため,他の調査員に対し,積極的に指導又は助言を行わなければならない。
2 認定者等は,第1条に規定する事務を推進するにあたり,積極的に問題点の把握とその解決に努めるとともに,職員に対し調査技術の指導又は助言を行い,事務の
  効果的な推進に努めるものとする。
3 調査員は,調査上必要な知識の修得に努め,調査技術の向上に努めなければならない。
4 調査員は,調査の経過その他参考となるべき事項を記録しておかなければならない。
(立入りの原則)
第32条 調査員の調査現場その他関係ある場所への立入りは,関係者等の立会いを得ることを原則とする。
(質問)
第33条 調査員は,関係者等に対して調査上必要な事項を質問し,火災状況の把握に努めなければならない。
2 前項の質問は,別に定めるところにより行うものとする。
(少年等に対する質問等)
第34条 少年(18歳未満の者をいう。以下同じ。)並びに身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第4条に定める身体障害者及び精神保健法(昭和25年法律第123号)
    第3条に定める精神障害者(以下「少年等」という。)の関係する火災で,前条に定める質問を行う場合には,立会人をおいて行うものとする。ただし,立会人をおくことで,真実の供述を得られないと判断されるときは,この限りでない。
2 前項の質問を行うにあたっては,少年等の心情を考慮し,十分な理解をもってあたらなくてはならない。
3 少年等は現場見分の立会人としてはならない。ただし,年齢,心情及びその他諸般の事情により支障がないと認められる場合は,この限りでない。
第35条 削除
        
  第1節の「調査実施上の通則」は、原因、損害、資料整理など火災調査業務に係わって派生する事項の基本的なことを定めている。
  第31条は、調査を実施する、主任調査員、調査員に必要とされる指針であり、「認定者等」は、火災調査のスペシャリストなど調査に
  関する知識・経験を有している職員が、当該火災調査においてその技能を発揮して、円滑、効率的な事務を推進することを定めてい
  る。第32条は、立入検査権の行使にあたっての注意事項である。立入検査権は、消防法第34条に基づく行政権限として行使されも
  のであり、条文としては消防法第4条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規程が準用される。その意味では、法令文に則り、
  淡々と実施されるものである。法4条は平成13年9月の新宿歌舞伎町火災による法令改正により、立入りの時間規制などが撤廃さ
  れているが、火災調査では、「一般住宅の火災」が多くを占めることから、「ただし書」が適用される。その意味でも、関係者の立ち会
  いを“原則”としている。
  第33は、質問権について、定めている。そのことにより、法文上は消防長又は消防署長の権限とされていることを職命されいるもの
  とし、質問調書内に「代理」としての記載を要しないとなっている。具体的な質問時の留意事項として、次のように定めている。
   『 質問調書等の録取要領等(第33条関係) 
   @ 質問を行うにあたっては,場所,時期などを考慮して被質問者の任意の供述を得るようにすること。
     なお,個人のプライバシーに関する事項の質問は,第三者が不在の場所で行うものとする。
   A 質問を行うにあたっては,自己が期待し,又は希望する供述内容を相手方に暗示するなどの方法により誘導してはならない
     こと。
   B 伝聞による供述で調査上必要なものは,その事実を直接経験した者の供述を得るものとすること。  』となっている。
  第34条の「少年等に対する質問」は、質問権行使にあたって非常に重要なことから、別に定めることなく、本文の規程として、
  載せられている。
  質問調書の扱いについて、都・情報公開条例により請求されたが、明らかなこと以外を非開示としたことから、審査会に提起された。
  平成21年11月の審査会結果として、質問調書の一部非開示については、@火災調査業務において得た関係者の供述は、すべて
  個人情報である。 A本件の供述内容は公益上特に開示する必要は認められない。 B開示することにより今後の火災調査業務
  に支障を及ぼす恐れのある行政運営情報である。 とされた。このように、火災調査で聴取される「質問調書」は、守秘義務の高い
  文書である。また、裁判判例上、証拠書類として高い位置づけとなっている(「火災調査法令」(「火災調査と法」のコーナ、参照)。  

第2節 基本事項の処理
(火災件数の扱い)
第36条 1件の火災とは,一つの出火点から拡大したもので,出火から鎮火するまでをいう。
2 東京消防庁管内において発生した火災は,すべて火災件数として取り扱い,当該取扱いの基準は別に定めるものとする。
(火災損害の区分)
第37条 火災の損害は次の3種とし,その内容は当該各号に掲げるとおりとする。
(1) 焼き損害とは,火災によって焼けた物,熱によって炭化,溶融又は破損した物等の損害をいう。
(2) 爆発損害とは,爆発現象により受けた破損等の損害をいう。
(3) その他の損害とは,消火のために受けた水損,破損,汚損等の損害並びに煙及び物品の搬出による損害をいう。
(火災の種別)
第38条 火災の種別は次の6種とし,その内容は当該各号に掲げるほか,別に定めるところによる。
(1) 建物火災 建物又はその収容物が焼損した火災をいう。
(2) 車両火災 車両及び被けん引車又はそれらの積載物が焼損した火災をいう。
(3) 船舶火災 船舶又はその積載物が焼損した火災をいう。
(4) 航空機火災 航空機又はその積載物が焼損した火災をいう。
(5) 林野火災 森林,原野又は牧野の樹木,雑草,飼料,敷料等が焼損した火災をいう。
(6) その他の火災 前各号以外の物が焼損した火災をいう。
2 前各号の火災が複合する場合の火災の種別は,焼き損害額の大なるものによる。ただし,その態様により焼き損害額の大なるものの種別によることが社会通念上適当でないと認められるときは,この限りでない。
3 前項の焼き損害額が同額又は算出されない場合は,火元の火災の種別による。
4 爆発損害のみの火災の種別は,前3項に準ずるものとする。
(焼損の程度)
第39条 建物の焼損程度は,1棟ごとに次の4種に区分し,その内容は当該各号に掲げるほか,別に定めるものとする。
(1) 全焼 建物の70パーセント以上を焼損したもの又はこれ未満であっても残存部分に補修を加えて再使用できないものをいう。
(2) 半焼 建物の20パーセント以上70パーセント未満を焼損したものをいう。
(3) 部分焼 全焼,半焼及びぼやに該当しないものをいう。
(4) ぼや 建物の10パーセント未満を焼損したもので,かつ,焼損床面積若しくは焼損表面積が1平方メートル未満のもの,又は収容物のみを焼損したものをいう。
2 車両,船舶及び航空機の焼損程度は,前各号に準ずるものとする。
(火災の程度)
第40条 火災の程度は,1件の火災のうち決定した火災の種別の焼損程度の大なるものにより全焼火災,半焼火災,部分焼火災及びぼや火災に区分する。
2 爆発損害のみの火災は,すべてぼや火災とする。
(焼損床面積等の算定)
第41条 建物の焼損面積は,焼損床面積及び焼損表面積に区分して算定するものとする。
2 水損,破損及び汚損の場合は,前項に準ずるものとする。
(出火日時分の決定)
第42条 出火日時分の決定は,関係者の火災発見状況,通報(覚知)時分及び消防対象物の構造,材質,状態並びに火気取扱い等の状況を総合的に検討し,合理的な時分とする。
なお,東京消防庁消防部隊運用規程第2条に定める事後聞知の方法で覚知された火災の取扱いについては別に定めるところにより,決定する。
(世帯のり災程度)
第43条 1世帯ごとに次の3種に区分し,その内容は当該各号に掲げるところによる。
なお,世帯は別に定めるところにより算定する。
(1) 全損 建物(その収容物を含む。以下この条において同じ。)の火災損害額(以下「損害額」という。)が,り災前の建物の評価額の70パーセント以上のものをいう。
(2) 半損 建物の損害額がり災前の建物の評価額の20パーセント以上70パーセント未満のものをいう。
(3) 小損 前各号に該当しないものをいう。
(損害額の算定基準)
第44条 損害額は,再建築費又は購入価格等を基本とし,減価償却を行って時価額を評価し,別に定めるところにより算定するものとする。
(火災による死傷者)
第45条 火災による死傷者は,火災及び消火活動,避難行動その他の行動等により火災現場において火災に直接起因して死亡又は負傷した者をいう。
2 火災による負傷者が受傷後48時間以内に死亡した場合には,火災による死者とする。
3 火災による負傷者のうち,48時間を超えて30日以内に死亡した者については,主管課に連絡するとともに,調査システムにより報告するものとする。
4 負傷の程度は,重篤,重症,中等症及び軽症の4種に区分し,その基準は,東京消防庁救急業務等に関する規程第70条に定めるところによる。
(出火原因分類等)
第46条 出火原因分類,用途別分類,業態別分類等は,東京消防庁情報通信規程第20条に定めるほか,別に定めるところによる。

        
  第2節 基本事項の処理は、その内容を国の「火災報告取扱要領」に寄っている。第36条は「火災件数」の取扱である。これも国の
  要綱に従っている。異なるのは各国外交官施設で、行政的には国内の火災として扱われないため「火災件数に入らない」が、当庁
  活動実績の上で「火災件数」として扱い、「火災種別」等を除外している。一般的には「1件の火災」は1件とする、となりそうに思われ
  るが、実際には、そのように計算されない場合もでてくる。例えば、漏電火災、落雷火災などは、同じ建物内にいくつもの「火災の箇
  所」が生じる。このような例外的扱いを、別に定めている。第37条「火災損害の区分」は、当初、焼け・消火・その他の3区分として、
  煙害や爆発などを[その他の損害]としていたが、平成7年の火災報告取扱要領の改正で、爆発が火災の定義となり、「爆発損害」
  が生じたことから、改めて、4つの区分分けをする必要もないことから、焼け・爆発・その他の3区分とし、従来の「消火と煙害なとの
  その他の損害」を合わせて「その他の損害」とした。なお、国への報告時には「その他の損害」を「消火損害」と置き換えている。
  第38条は、「火災の種別」で、詳細な説明は別に定めているが、火災報告取扱要領と同じである。第39条「焼損の区分」も火災
  報告取扱要領と同じである。全焼の70%、部分焼の20%の数値基準は、元々は火災保険支払い時の扱いと同じにしたもので
  ある。第40条「火災の程度」は、火災報告取扱要領にはなく、東京消防庁など数本部のみ取り扱っている。これは、最も、大きく
  燃え建物の火災焼損程度を、その[火災の程度]と定めて、火災後の広報等で、どの程度の火災が発生したかを理解されやすく
  するために設けた区分である。全国的には、このような区分はない。なお、現在、耐火建物火災が多くなってくると、結局は「部分
  焼火災」となってしまい、広報的効果は低くなりつつある。
  第41条「焼損床面積の算定等」は、建物火災の損害査定において、焼損床面積で計上される部分と焼損表面積で計上される部
  分を明確にするため表している。昔は、この焼損表面積での損害計上をいあまり重視しなかった。もっとも、建物火災のほんど
  が「木造系建物」の場合、焼損表面積の計上箇所はあまりなかったからであるが。現在は耐火系建物の火災が多いため、あえ
  て、注意事項として「基本事項」にいれてある。
  第42条「出火日時の決定」は、原因判定上の難しい課題であり、厳密な意味で火災の「出火時分」は導き出すのが困難である。
  放火の場合は、行為者が「火を放った時分」とすると、犯人逮捕を待つことなく出火時分が入れられない、寝タバコの場合はどの
  時点を「火災」とするかが、明確ではない、同様なあらゆる「火災」は、発火源と着火物との関係において、経過のとらえ方におい
  て厳密な意味で、導き出せない。そこで、消防としての行政的見地から、火災の周りの状況を勘案して判定するとしたものであ
  る。放火火災の裁判で、被疑者の「放火行為時間」と消防の火災判定上の出火時間が異なることにおいては、「何ら問題ない」
  と考える論拠として、規程上で定義したものである。特に、「事後聞知火災」には、さまざまなケースがあることから、別に定めて
  いる。
  第43条「世帯のり災程度」は、火災報告取扱要領と同じである。この場合、火災の程度と異なり、「収容物など」も含まれ、出火
  前の評価額にこ対するり災後の評価額を除するもので、評価計算等からり災後数日以上経ないと、判定できない区分でもある。
  第44条「損害額の算定」について、減価償却等を経たうえでの[時価額]を用いることを明記している。これは、商法第638条の
  「損害額の算定」を応用している。火災の損害は、火災保険や損害賠償などの民事事案と密接に結びつくことから、損害評価時
  の考えたを明確にしたものである。(このように規程上で行政上の業務内容に“意味づけ”をしている火災調査規程は、他にあま
  ない。)
  第45条「火災による死傷者」は、どの時点までを「生きていた」とするのか、が問われることから、火災報告取扱要領と同じに扱い
  48時間としている。なお、交通事故の死者は24時間である。また、WHOの国際統計の報告の上から[30日]までも、統計上で
  取っている。48時間で打ち切る場合と30日までを広げた場合の比は、100人で1人程度である。
  第46条「出火原因分類」は、コードとして電算処理上の扱いとして定めている。
  ここで、出火原因の分類は,@発火源は,出火に直接関係し,又はそれ自体から出火したものをいう。 A経過は,出火に関
  係した現象,状態又は行為をいう。 B 着火物は,発火源によって最初に着火したものをいう。 C出火箇所は,火災の発生し
  た場所をいう。さらに、コードとして、建物等の用途別分類、業態別分類、政令用途分類などのコードにより火災対象を統計処
  理するシステムとなつている。「発火源、経過、着火物、出火箇所」のコードの扱いと考えた方は、昭和27年火災学会の火災統計
  研究会で決められたもので、以後、その考え方を受け継いで、精緻な「火災分析」を行っており、専門的知見を必要とする。

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