目明し編(20)

 冷静になると、詩音が凶行に走った理由がわからなくなったのだが、悟史の復讐の為だよな?

 しかし、その「悟史の復讐」という凶行理由も沙都子を追い詰める過程で瓦解した。

 詩音は悟史が死亡したのだと諦めた。
 だから、敵討ちを銘打って復讐に走った。

 沙都子は悟史が生きていると信じていた。
 だから、今も強くなろうと頑張っていた。

 にーにーに甘えない。
 しっかりした1人前になったことを教える。



 似たような事を沙都子は「祟殺し」編でも言った。

 あの時は圭一と同じく、
「そんな事を言わずに、周りに助けを求めてほしい」
と思った。

 だが「目明し」編ではそうは思えない。
 沙都子には沙都子なりの罪悪感がある。



 にーにーに甘えない。
 しっかりした1人前になったことを教える。

 この決意を覆す。
 それはにーにーを追い詰めた元の自分に戻ることに等しい。

 複雑な心境だ。

 「目明し」編の、地下祭具殿に捕らえられてしまった状況下では、この決意がすばらしい事に思える。

 でも「祟殺し」編の時ならば、その決意を覆してでも仮のにーにーに甘えてほしかった。
 それが互いに幸せになれる方法だったと思う。

 1回目は「助けてにーにー」という言葉への悲痛さと嫌悪感。
 2回目は「にーにーに甘えない」という言葉への寂しさと感心。

 同じ内容でも、その場面によって受ける感情が違う言葉を発したのは、またもや沙都子だった。



 結局、沙都子は1度も「にーにー」に助けを求めることなく死んだ。

 「綿流し」編で梨花と沙都子は、ただ無残に殺されたのだと思っていた。
 しかし事実がここまで異なるとは思いもしなかった。 

乙女って年齢でもないのです

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