10.おかあさん


 今日は自宅で休み、明日からとうさんを手伝う事となった。

 自宅まで僕を送ってくれている車は、外の様子を見る事ができないように細工されていた。

 結局、僕は鷹貴が見たと言う惨状を見ていない。
 だけどパン、パンという銃声は何回も何回も聞こえた。

 ココが僕達のよく知っている世界とは違うという事を理解するには、それだけで十分だった。



 せっかく仲直りできた神楽達とも、結局はケンカ別れになってしまった。

 神楽にぶたれた左頬はまだヒリヒリしている。

 手を左頬にあてながら、僕は考え事を始めた。

赤い左頬

 僕は、将来とうさんの役に立つことだけを考え、生きてきた。
 だから勉強も一生懸命にやった。

 僕は“頭脳”でとうさんの力になろうと考えていた。
 だけど、とうさんが今の僕に求めているのは“頭脳”ではなく“武力”だ。

 ココに戻ってくる直前に“GAME―パラレル―”の統括者が言っていた、ゲームの途中で現実世界に戻る事ができないように操作した誰かも、今では大体予想がつく。

 とうさんの仲間内の誰か以外に考えようがない。

 とうさんはクリア時の特典を国権を奪うための力として使おうと考えた。

 だから僕に無理やりにゲームを始めさせ、そして必ず特典を得て戻ってくるように途中で戻れなくなるように細工したんだ。

 ・・・おそらく僕がゲームオーバーで死ぬかもしれない事を、とうさんは考慮していなかっただろう。

『あんた悔しくないの?
 こいつはアンタの事を便利な武器程度にしか思っていないよ!』

 先刻の神楽の怒り声が僕の頭に響く。

 この言葉は僕に向けて発された。
 だけど、その内容はとうさんに対する怒りだ。

 ほんの1週間程度、行動を共にしただけの僕を思いやる怒りだった。

 それなのに、この思いやりの言葉に対する僕の答えは、
『とうさんが僕にそう望んでいるのなら・・・僕はそれでも構わないよ』
だった。

 僕は自分でとうさんの「武器」になることを望んだ。

 だって、僕は本当に今までそれだけを考えてきたんだ。
 早くとうさんの役に立ちたい、早くとうさんの役に立ちたい。
 そう思いながら、僕は生きてきた。

 だからあの時は心の底から自分が「武器」でも構わないと、そう思った。

 だけど今はわずかに疑問が残る。

 これで良かったのだろうか、と。

 僕は「武器」になる事を望んだ。

 だから、これから僕は大勢の人間を殺していく事になるだろう。

 まだ実感はわいてこなかった。

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