とうさんはクーデター実行後、自分に必要な拠点を直ちに制圧していた。

 その拠点とは、“GAME―パラレル―”の機械1式があった、あのビル。
 そして、とうさんの自宅周辺だ。

 他にも制圧した多くの拠点があるらしいけど、その全てを教えてはもらえなかった。

 自宅周辺は異様に静かだった。
 街中のような銃声1つ、聞く事はできない。

 その静けさが不気味だ。

 自宅の門前に立っている兵士以外には、歩く人1人見つける事さえできない。

 僕は車に乗ったままの状態で兵士が立つ門を通過し、そこから少し離れた所にある玄関の前で降りた。

 玄関のドアを開ける前に、ふと自宅を見上げた。
 相変わらず大きな家だ、と思った。

 2階建ての家だけど、建物の面積が大きいのだ。
 そして、先程言ったように入り口から玄関までの距離も少しある。

 もちろん“GAME―パラレル―”で見た魔王の城よりは全体的に小さい。
 だけど、現実世界で生活するには十分すぎる大きさだ。

 次に僕は建物の上の空を見上げた。
 だけど、“GAME―パラレル―”の世界のような月を見ることはできなかった。
 夜の闇で黒く見える雲がまんべんなく、月を隠していた。

 見えないのなら仕方ない。
 僕は視線を下ろし、目の前のドアに手を伸ばした。

 ドアを開けると、中年の女性が目の前にいた。
 家政婦のユミさんだ。

 ユミさんは僕の姿を見て、目を大きく見開いた。

「り、力坊ちゃん。生きていらっしゃったのですか?」

 ・・・生きて?

 一瞬、意味わからなかった。
 だけど、自分が約1週間不在だった事とこの国の今の状況を思い出した。

 とうさんは僕に関する説明を一切しなかったらしく、ユミさんは僕が死んだものと思っていたようだ。

「奥様!力、力坊ちゃんが戻られましたよ!」

 タエさんは大声で階段の上に向かって叫んだ。

 するとドアをダンと開ける音に続き、バタバタと言う足音が聞こえてきた。
 その音は徐々に大きくなり、次に人影が見えてきた。

 その人影は僕の母さん、郡藤荻世(ぐんとう おぎよ)だった。

母親

 階段を下りて、玄関まで突進し、母さんはいきなり僕におおいかぶさった。
 前が見えないし、しかも抱き潰されて苦しい。

「力、一週間以上もどこに行っていたの」

 更に強い力で母さんは僕を抱き潰す。

「ご、ごめん。ちょっと用事があって遅くなったんだ」
「用事?」

 僕に抱きついていた母さんは“用事”という言葉を聞いて、いきなりニヤリとした。

「一体何の用事だったのかしら〜?
 ちょっとこっちに来なさい。母さんの部屋でじ〜っくり話してもらうわよ」

 一体何を連想しているんだか。

 僕は無理やり母さんの部屋に引きずり込まれた。

 ああ、そうですよ。
 母さんは元々こういう人だ。

 おそらく今、この瞬間は外が物騒な事も忘れている。
 息子の僕が言うのも悪い気がするけれど、きっと心臓に剛毛が何本も生えているに違いない。

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