母さんはソファに座り、僕を見ながら自分の横をポンポンと叩いた。

 ココに座れという事らしい。

 おそらく嫌だと言っても、無理やり座らせるだろう。
 無駄な抵抗は止めておき、僕は母さんの隣りに座った。

「この1週間、どこで誰と何をしていたの?」
「どこで誰とって・・・」

 妙な想像をして、目を輝かせながら母さんは僕を見つめているのだろうと思った。

 だけど実際に顔を見てみると、母さんは至って真剣だった。

 な、何だよ、この顔は?
 母さんらしくない。

 その顔に気圧されながら、僕はおずおずと答えた。

「な、何って・・・とうさんの手伝い」

 事実とは異なる答えだ。

 だけど、ゲームの世界に行ってましたなんて言っても、母さんは信じないだろう。
 はぐらかされたと思って、きっと怒るに違いない。

 だけど、この答えはまずかった。

 母さんは更に険しい顔になってしまった。

「とうさんの手伝いって・・・あんた一体何を・・・」

 そう。
 とうさんの手伝いという言い方は、つまりクーデターへの協力をしていたという意味になってしまう。

 母さんの顔色が青ざめていくのを見て、僕は手をブンブンとふった。

「違う、違うよ。まだ手伝ってはいない。その下準備をしていただけだよ」
「本当?」
「うん、本当だよ」

 それは本当だ。
 まだ手伝ってはいない。

 だけど、
「明日から手伝うんだ」

 母さんを見つめながら言った僕のその言葉に、再び母さんは険しい顔をした。

 今度は母さんは青ざめなかった。
 しばし無言の後、僕の肩をギュッと強くつかみ、そしてまっすぐに僕を見た。

「あんたは本っ当にそれでいいの?」

「え?」

 胸がドキッとした。

 神楽が言ったわけではない。
 だけど、母さんの顔が一瞬神楽の顔に見えた。

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 母さんと神楽の2人に「それでいいのか?」と訊かれた気分になって、僕はうろたえた。

「い、いいよ。これは僕の意思なんだ」
「・・・そう」

 母さんは僕の肩から手を離し、ソファから立ち上がった。
 僕に背を向けたままで、母さんは訊ねた。

「ねえ、力。母さん前々から思ってた事、今ココで言っていい?」

 ・・・?
 いきなり何だろう?

 僕には特に反対する理由もないので、「どうぞ」と答えた。

 するといきなり、
「母さん、この結婚失敗したわ〜!」
と叫んだ。

 しかもかなり大声で。

 この家は一応防音仕様になっているけれど、それでも外にまで響いた事が安易に想像できるほどの大声だった。
 外にいる見張りの兵が驚いている姿が目に浮かぶ。

 そして、僕も驚きのあまりソファからずり落ちそうになった。

「な、何言ってんの、母さん?」

 僕の方に振り返った母さんはとてもニコニコとしていた。
 そして、その笑顔のままこう話を続けた。

「母さん、とうさんと別れる事に今決めたわ」
「へ?」

 何を言っているんだ。
 何故いきなりそんな話に?

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