母さんは話を続けた。
「そもそも、この結婚は私達に愛情があったからでは無いのよ。
王我は親友の息子のあなたのことをすごく評価していてね。
あなたの後見人になることを望んでいたわ。
それなら私共々面倒を見てもらおうかと言う話になって、結婚したのよ。
私の稼ぎだけじゃ、あなたに好きな事をさせてあげられそうになかったからね」
「えぇ?」
またソファからずり落ちそうになった。
そんな話、初耳だ。
とても初耳だ。
大体、親友の息子って・・・何?
「でもやっぱり愛のない結婚はだめね。身にしみてよぉ〜くわかったわ」
「ちょ、ちょちょちょっと待って」
1人でウンウンと頷きながら語る母さんに、僕は割って入った。
母さんが何?と言いたげな顔で僕を見つめた。
「し、親友、親友ってとうさんは遥父さんと知り合いだったの?
そんな話聞いた事ないよ」
「あら、言ってなかったかしら?」
「聞いてない」
あら、ごめんなっさ〜いと言いながら、母さんは僕の背中をバシバシと叩いた。
そうだ、この人はこういう人だった。
「それに愛のないって、母さんもしかして今でも遥父さんのこと・・・」
「ええ、好きよ」
母さんは少し頬を赤らめた。
「実を言うと、今でも待ってるのよ。
私は父さん・・・遥が死んだなんてひとかけらも思っていないもの」
頬を赤らめたまま、母さんは窓の外を眺めた。
どこかにいるはずの父さんに思いを馳せているのだろうか?
「ただ待ちくたびれちゃったのと、生活面の事考えて王我と結婚しちゃったけどね」
今度は僕の方に向き直り、母さんはアハハと力なく笑った。
一方僕はフツフツと怒りがわいてきた。
そして、その怒りはすぐさま爆発した。
「母さんすごく自分勝手だよ!
自分がとうさんを好きじゃないから別れるなんて、
全く僕の事考えてくれていないじゃないか!」
そうだ。
2人が別れてしまえば、僕はどちらについていけばいいのかわからなくなる。
僕を生んでくれた母親と育ててくれた父親の板ばさみになる。
僕の怒りの声に母さんは笑うのをやめ、僕にツカツカと近寄った。
「力、今のあんたは人間?」
「・・・何当たり前の事を。人間に決まってるじゃないか」
その答えに、母さんはため息をつきながらフルフルと首を振った。
「私にはそうは見えない。あんたは人形よ。王我に操られている人形」
僕の胸がまたドキッとした。
「今のあなたは王我が笑えと言えば笑い、怒れといえば怒る人形に成り果てているわ。
これが私が結婚を失敗したと思う第一の理由よ。
あなたは自分の考えを持っていない」