「それに・・・こんな事をした人を私は許さない!」
母さんがガシッとリモコンをつかみ、テレビの電源をつけた。
画面に映ったのはニュースだった。
必死な表情でリポーターが訴えていた。
“繰り返します!
我々には命ある限り、この光景を世界の人々に放映し、
真実を訴える義務があります。
このテレビを見られた方々、この酷さを決して忘れないでください!”
この現状で、テレビが放映されているだけでも驚きだった。
本当に国民、いや世界中の人々に訴えるために死を覚悟の上で流されているニュースのようだった。
それだけにリポーターの言葉は、僕に何かを訴えかけた。
画面に映った光景は、きっと鷹貴があの時見たモノと同じ。
そこにあるのは死体。
死体。
死体の山。
「私たちの国はどこかで誰かが飢えていた?不当な迫害を受けていた?」
ある死体は頭部を銃で撃ちぬかれていた。
「武力をもって修復しなければならないほど、私たちの国は腐っていた?
いいえ、そんなことないわ!」
ある死体は四肢がバラバラになっていた。
「例え腐りかけていたとしてもまだ言葉で、話し合いで修復可能なモノだったはずよ!」
子供に覆いかぶさるようにして亡くなっている人がいた。
「こんなに・・・こんなに大勢の人が死ぬ必要はなかった!」
死体にしがみついて、子供が泣いていた。

僕の全身からダラダラと汗が流れ出し、しかも目の前がボンヤリしてきた。
言葉では聞いていた。
『この国でクーデターが発生した』
『死者が大量に出た』
その言葉を理解しているつもりだった。
鷹貴に止められ、車内でも遮断され、この光景を1欠片も見ていないのに理解しているつもりだった。
これがクーデター。
戦争。
死。
・・・人殺し。
神楽と鷹貴も兵士に発砲された時、1つ間違えればこうなっていた。
「私はさっきまで、この人達の中にあなたがいると思っていたのよ」
母さんのその言葉にハッとして、いつの間にか俯いていた顔を上げた。
母さんの目からはポロポロと涙がこぼれていた。
その表情のまま、母さんは僕を強く抱きしめた。
「よく考えなさい、力。あなたはあなたの頭で考えるのよ。
何が今のあなたにとって一番良いことなのか」
見た事のなかった泣き顔にうろたえながらも、とりあえず落ち着かせるために僕も母さんを抱きしめた。
そうしながら僕はボンヤリと、ある話を思い出していた。
それはブンが話してくれた“GAME―パラレル―”のプロローグ。
神々に愛された大地、その名もパラレル。
その地に住む人々は笑顔が絶えず、一日一日を幸せに過ごしていた。
しかし、その日々も一人の邪悪なる者の出現により終わる。
邪悪なる者の名は魔王。
その者が解き放った魔物は人々を恐怖と絶望の底に陥れた。
それを見て笑うのは魔王ただひとり。
人々は待ち続ける。魔王を倒す勇者を――。
現実世界で例えるならばパラレルはこの国、だとすればとうさんは魔王?
それならば僕は魔王の持つ最強の武器だ。
笑顔が絶えず、一日一日を幸せに過ごしていた人々をどん底に陥れる武器だ。
目の前のテレビで流れ、これからも増えるだろう、この悲惨な光景を作り出す武器なのだ。
『よく考えなさい、力。あなたはあなたの頭で考えるのよ。
何が今のあなたにとって一番良いことなのか』
その通りだ。
僕は僕の頭で考える必要があるようだ。
これからどうするべきなのかを。
僕はさらに強く母さんを抱きしめた。
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