「ふざけるな!」
怒号と共にダァンと床を踏みつける音が建物の中に響いた。
神楽だった。
「あんた、自分の息子を何だと思っているのさ。
息子は兵隊じゃないし、武器でもない!」
その怒りに鷹貴も同調した。
「そうだな、あんたは一体自分の息子を何だと思っているんだよ。
最悪だな」
そして、由宇香さんも同調した。
「そうね。今まで自分の父親が一番最低だと思っていたけど違ったわね。
あなたが一番最低だわ」
とうさんにふりそそぐ、罵詈雑言。
とうさん本人はそれらの言葉を不愉快とも悲しいとも思っていないらしく、平然としていた。
その言葉に心を痛め、彼らの言葉を遮ったのはとうさんではなく、周囲の兵士でもなく、僕だった。
「ごめん、やめてくれないかな」
僕はとうさんと彼らの間に割り入って、彼らを制止した。
神楽はその僕の行動に一瞬口を開けたまま固まったけれど、僕の方をじっと見つめた後に再び怒りだした。
「あんた悔しくないの?
こいつはアンタの事を便利な武器程度にしか思っていないよ!」
止まらない神楽の怒り。
「そんな事ない。とうさんは僕の事を大切に思ってくれている」
そうだ、そう思ってくれている・・・はずだ。
僕は俯き気味になっていた自分の頭をグッと上げ、神楽を見つめながら次の言葉を発しようとした。
だけど神楽の顔がまともに見れなくて、結局は神楽の右斜めを見つめながら呟いた。
「それにとうさんが僕にそう望んでいるのなら・・・僕はそれでも構わないよ」
この言葉は先刻のとうさんの問い、「その力をとうさんのために役立ててくれないか」に答えたも同然だった。
つまり僕は神楽たちの言う、「武器」になる事を選んだのだ。
その言葉に神楽は大きな目を更に大きく見開いた。
「あんた、その言葉の意味わかってんの?」
「・・・わかってるよ」
実はよくわかっていないかもしれない。
僕の頭の中で今一番優先されているのは、とうさんの恩に報いる事だ。
だから、この結論を出した。
それだけだから。
「人を殺す事になるんだよ」
「・・・それもわかってるよ」
そう言った時、僕は左頬に強い衝撃を感じた。
神楽にぶたれたのだ。