「いや、首謀者という言い方は正しくない。発案者というべきだろう」
とうさんは自分で自分の発言を訂正した。
僕達は驚きのあまり微動だにできない。
動き、そして思考すらも固まった僕達4人にとうさんは話を続けた。
「クーデターの計画はかなり以前から内密に進めていた。
しかし、政府上層部にわずかにではあるが情報が漏れていたようだ。
我々を抑止する方向で事が内々に進んでいた」
僕は目だけを動かして、とうさんを見た。
自分が発案者であるというクーデターが発生するまでの成り行きを、とうさんは嬉々として語っている。
「だから抑止される前に実行に移ったという訳だよ。
現状の用意でも国権を奪うには十分だったからな」
とうさんの話に耳を傾けつつ、僕はあたりを見回した。
とうさんの後ろに控える兵士達。
彼らからは何の感情も読み取れない。
そして、僕の横に並ぶ3人。
先程まで呆然としていた彼らの顔には段々と怒りの表情が浮かんできていた。
どんな理由があったとしても、暴力に訴え、多くの人を死なせる行動に出た人間を許さない。
そんな顔だった。
実際にその惨劇の光景を見てしまったらしい鷹貴からは特に強い怒りが見えた。
そんな顔をしないでほしい、と僕は思った。
みんなが今厳しい視線を投げかけているのは僕の父だ。
どんな非難を受けようとも、僕がとうさんから受けた多くの恩に変わりはない。
そうだ。
この行為にも実は深い理由があるのかもしれない。
そう信じたい。
僕がそんな事を考えていた時、とうさんが決定的な真実を語りだした。
「国権を奪えるという見込みはあった。
しかし、確実に国権を奪うために後ひとつ強い力が欲しかった」
そこで一旦とうさんは言葉をきり、僕を見つめながらゆっくりと口を開いた。
「その最後の力が、お前なのだよ。力」
いきなり名指しされ僕はドキンとした。
他の3人も僕に注目した。
「ぼ、僕?」
「そう、お前だ」
にこやかに僕の問いに答え、とうさんは僕達全員に向き直った。
「君達は“GAME―パラレル―”をクリアした特典が何なのか知っているかね」
特典の話はブンからも聞いた。
だけど、ブンも詳しくは知らなかった。
円筒状の物体に残っていた小物を特典だったのだと、僕達は勝手に判断した。
だけど、とうさんの話しぶりからすると違うように思える。
結果、僕達は首を横に振った。
その反応に満足したかのように、とうさんは微笑みながら説明を始めた。
「“GAME―パラレル―”をクリアした者はある条件にて、
現実世界でもゲーム内部と同等の力を発揮する事ができるようになる。
戦士ならば岩をも砕く力、
僧侶ならば傷を癒す能力というように」
・・・そうか。
先程の神楽の驚異的な動きはその条件をクリアしていたからだったんだ。
だとすると、その条件とは一体何なのだろう?
「現実世界に戻ってきた時、ゲーム内部で身につけていたものが落ちていなかったかね?
それを自分の身に纏うことで同等の力を発揮する事ができるようになるのだよ」
あの時、確かに神楽はウエストポーチを身につけていた。
それならば、僕は赤いハチマキをまけば魔法が使えるのだろう。
いつの間にか、とうさんから微笑みは消え、真剣な表情で僕を見つめていた。
「しかし、“GAME―パラレル―”の力を武力として使用するための条件があった。
ワタシが絶対的信頼を置く事ができ、
そしてワタシが期待する『魔法使い』となれる能力を備えている者だ」
“GAME―パラレル―”にて『魔法使い』となれる人物の特徴は「勤勉」、「知的」そして「非力」である事だととうさんは語った。
少し複雑な心境だ。
「力、お前はとうさんの期待通り『魔法使い』になった。
クリアするのには、あと少し時間がかかると予想していたがね。
早くなった分には一向に構わない。
どうだ、その力をとうさんのために役立ててくれないか?」
僕はとうさんを尊敬している。
貧困の生活をしていた僕達を、ひとりぼっちだった僕を救ってくれたとうさんに感謝している。
だから、僕は少しでも早くとうさんの役に立ちたいと願っていた。
これは僕の考えていた形での恩返しではない。
だけど、今すぐにでも僕はとうさんの役に立つことができるのだ。
『魔法使い』、強大な力を持つ者として。