急いで自分の部屋に戻り、入り口のドアを閉めた。
 そしてすかさず、ドアに耳を当てた。

 どうやらユミさんが僕の後を追ってくる様子はないようだ。

 フゥと息を吐きながら、ふとドアの横を見た。
 そこには玄関の物より小さい鏡が掛けられていた。

『男の子でも身だしなみを整えるのは大切よ』
と言って、母さんが半強制的に設置した鏡だ。

 鏡の中に黒髪で濃い茶の瞳の僕がいる。
 その鏡の中の僕からは全く覇気が感じられない。
 濃い茶の瞳が澱んでいた。

 鏡の前でもう一度ハチマキをまいてみた。

 すると、先程と同じように髪の色がまっ青、瞳の色が薄い赤に変化した。

「この状態が準備完了ってことか」

 僕は小さな声で独り言を呟いた。

 この外見になることで、僕は高性能の兵器へと変化したことになる。

 先程の検証で、魔法の威力は“GAME―パラレル―”の世界での威力と違いはないことがわかった。
 ということは、1度使った、あの最強呪文を使えば“GAME―パラレル―”の世界と同じように山も吹っ飛ぶだろう。

「・・・これで良かったんだ」

 そう呟きながら、鏡の中の僕を覗く。

 先程と同じように赤い色の瞳は暗く澱み、光を宿していなかった。

言葉と心

 本当はわかっていた。

 それが僕の本当の心だ。

 とうさんの力になりたいと今まで散々言ってきた。
 それは自分の本心からの望みだった。

 この世界に戻ってくるまでは、そうだった。

 でも心の奥底では、幸せに暮らしていた人たちを足蹴にしてまでとうさんの願いを叶えたいとは思っていない。

 その願いをきけば僕はもう元の「郡藤 力」には戻れない。
 僕は人殺しの兵器になる。

 僕はとうさんに恩がある。
 僕がここまで生きてこれたのはとうさんのおかげだ。
 それは間違いない。

 しかし、その恩のために僕は人を殺すのか?
 その恩のために幸せに生きていた人を殺すのか?
 起こす必要のない争いを引き起こした人を守るのか?
 僕は兵器になるのか?

 様々な思考が僕の中で交錯した。

 僕は鏡の前で俯き、立ち尽くしたまましばらく動けなかった。

「地獄に落ちるかもね」

 ポツリと呟いた。

 地獄に落ちたって構わない、と僕は思った。

 もう悩む事はない。
 決意した。

 明日が来れば、僕は。

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