次の日の早朝、とうさんの部下の兵士がやってきた。

「力君。お父さんが君を呼んでいる」
と言うと、僕を部屋から連れ出した。

 兵士2人にズルズルと引きずられ、寝ぼけまなこの僕は車に乗った。

 程なく発車した車内で、僕は段々と脳が覚醒してきた。

 僕は何処へ連れて行かれるのだろうか?

 考え込む僕に、兵士は暗い緑色の服を手渡した。

「寝巻のままで外に出るのは嫌だろ?」
「え?あ、ええ、まぁ・・・」

 つまり、これに着替えろという事らしい。

 確かに今の僕はパジャマを着ている。
 しかも寝癖でボサボサの頭だ。

 家で着替えをする時間を与えなかったのはあんた達だよという文句を飲み込み、手渡された服に着替えた。

「え?」

 着て驚いた。

 だけど、それは当然だった。
 僕は昨日、そう約束していたのだから。

「それは王我軍の軍服だ」

 1人の兵士がそう言って、僕に赤いハチマキを差し出した。

「君には今日から戦闘に参加してもらう」

 もう1人の兵士がつけ加えるようにそう言った。



 今、僕は戦場の中心にある建物の屋上に立っている。

 周囲から「あんな子供が何の役に立つんだ」と言う声や「王我さんは一体何を考えているのだ」と言う声が聞こえる。

 だけど、僕は何も心を動かされなかった。

 ある事を決意していたからだ。
 今はその事について考えるのに精一杯で、他の事項で動揺している余裕も無い。

 すでに僕の準備は完了していた。

 赤いハチマキを額にまき、髪の色はまっ青に瞳の色は薄い赤。

 その奇妙な風貌を訝しがっている人達もいた。

 とうさんは僕から離れた位置で2人の兵士に守られるように立っていた。
 僕はとうさんにツカツカと歩み寄り、声をかけた。

「とうさん」
「無駄口をたたくな。そろそろ来るぞ」

 僕の呼びかけを遮って、とうさんは建物の下を指した。

 そこには大勢の人が集結しつつあった。
 とうさんと現在敵対している政府軍だ。

「あいつらを魔法で燃やせ。できるな?」

 僕の返事も聞かず、すぐにとうさんは護衛と共に建物の中に避難した。

 建物の下では政府軍ととうさんの軍が今にも戦闘を開始しそうな雰囲気に見えた。

 そして、そこから少し離れた位置にも数人の人影が見えた。
 兵士にしては体つきが小さい。

「!」

 その人影をさらに瞳をこらしてみて驚いた。

 アレは神楽達だ。

 どうしてこんなところにいるんだ?

 彼らを見ていると、とうさん側の兵士だけではなく、政府側の兵士に姿を見られる事も避けていた。

 ・・・誰の許可も得ず、黙って入ってきたのだけは察しがついた。

 “GAME―パラレル―”の能力を使えば、どうにか入ってこれるだろう。

 彼女達も十分能力を悪用しているじゃないか、と僕は頭をかかえた。

 ココに入ってきた手段は分かったけれど、こんな危険な場所にきた理由はまだ謎だ。
 本当にどうしてこんな所に来たのだろうか?

 その時、遥か遠くの神楽と目が合った。

 実際はそんな気がしただけかもしれない。
 だけど、僕はドキッとした。

 彼女に「本当にそれでいいの?」と訊かれた気がした。

 だけど、今の僕ならばきっと神楽にハッキリと言える。

 僕はもう自分の意思で自分のやることを決めた。
 もう後悔はしない。

静心

 僕は頭に浮かんだ呪文を口にした。
「“元に戻る事は―”」

 とうさんの笑い声が聞こえた気がした。
「“―時の精霊よ―”」

 神楽が遠くから叫んでいる気がした。
「“―砂をとどめたまえ―”」

 そして、下では赤い飛沫を飛ばしながら、激しく人々が争っていた。
「“―”」

 呪文を唱え終えた僕の右手が激しく輝いた。

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