僕は言いたい事を全て告げた。

 意外にも視線の先にいるとうさんからは怒りの感情が消え失せ、穏やかな表情になっていた。

「・・・そうか。ワタシと考え方が違うのならば仕方がないな」

 とうさんは前髪を後ろにかきあげた後、あらためて僕を見た。

「それでだ。これからどうするつもりなんだ?」
「母さんの側にいようと思います」

 母さんは昨日まで僕が死んでしまったものだと思っていた。

 だからなのか、現在精神が少し不安定に思える。
 普通の母さんだったら僕の前で号泣はしない。

 だから、今はできるだけ母さんの側にいてあげようと思っている。

 そう。
 僕に“GAME―パラレル―”で得た力を使う気は一切無かった。
 強大な力がありながら、使わない事は卑怯なのだろうか?

 本人の口から聞くべきだと思い、母さんが離婚する気である事は告げなかった。

 僕は母さんについていく事になると思う。
 そして、とうさんがこの戦争に勝利するかどうかはわからない。

 だけど、戦争の結果がどうなっても。
 母さんについていく事になっても。
 僕は僕の考えた方法でいつかとうさんの恩に報いようと思う。

 それが僕の恩返しだ。

「そうか、わかった。ではココでサヨナラだな」

 そう言って、とうさんは穏やかな表情のまま右手を差し出した。
 握手の体勢だ。

 僕に握手を拒否する理由は無い。

 だから僕も右手を差し出し、とうさんの手を堅く握った。



 その瞬間、僕は強い力で前に引っ張られた。



 よろけた僕に、とうさんの声が聞こえた。

「こんなことなら父親と同じように最初から始末しておけば良かったよ」



理解したくない言葉




 ・・・え?



 その声の直後、僕は床に膝をついた。

 背後からチャッという音が聞こえた。
 振り向くと、とうさんが銃をつかんでいた。

 まずい、逃げなければ。

 それはわかってはいた。

 だけど、僕の頭は逃げる事よりも先程のとうさんの言葉の意味を理解しようと努力している。

 父親と同じように最初から始末?
 父親、僕の実の父親「結城遥」。
 結城遥は行方不明。
 始末。
 行方不明?

 混乱したまま立ち上がれない僕に、とうさんが銃を僕に向けた。



「危ない!」

 銃声とほぼ同時に飛び込んできた神楽が僕を抱えて横に飛んだ。

 横飛びし、床にドスンと音をたてて着地した後、僕達はズリズリと床を滑った。

 僕が先程まで倒れこんでいた場所に銃痕ができていた。

 最初の発砲は避けたが、僕と神楽は床に転がったまま、すぐには起き上がれなかった。
 次に発砲されたら避けられない。

 それはその場にいる3人とも理解していた。



 その時、僕の使った魔法の効果がきれた。



 外の激しい銃撃戦が再開し、その音が屋内にも響いた。
 とうさんが反応し、その音の方向に銃を向けた。

 その隙に神楽がウエストポーチの中に手を突っ込ま、何かをつかんだ。
 そして、再び僕達の方向に向き直ったとうさんの顔にそれを思いっきり投げた。

 砂だった。

「うあっ!」

 とうさんが目を押さえる。

 屋上にいた兵士が僕の不在を知り、こちらに向かってくる声が聞こえた。

「逃げるよ!」

 神楽は僕を引っ張り、起き上がらせた。
 そしてすぐに階下に向かうドアを開けた。

 背後で騒ぐ声が聞こえるけれど、そんな事には構っていられない。

 神楽達を時間停止の魔法の効果が及ぶ枠に入れなかったのは、僕に何かが起こったときの保険だった。
 だけど、それはとうさんが僕に向かって発砲するなんて事を想定した保険ではなかった。

 呆然としている僕を無理やり引っ張って、彼女は走り出した。

 背後から聞こえる声が段々と大きなものになっていた。

 僕の頭の中で先程のとうさんの言葉がグルグルと回っていた。

『こんなことなら父親と同じように最初から始末しておけば良かったよ』

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