そのまま持っているのも怖かったので、わたしは近くにあった女子トイレの棚に銃を隠した。

「さ、行こう」

 その間も物陰に隠れたまま、ぼんやりとしていた力を再び引っ張った。
 相変わらず、力の顔に生気は無かった。

 力があの親父と話しこんでいる時、入るタイミングがつかめず、わたしはずっとドア横で待機していた。
 だから、大体の状況は把握している。

 つまり、力の沈み込んでしまう気持ちもわからなくはないけど、
「その死にそうな顔はやめなよ」
と忠告してみた。

 その言葉だけではただの暴言なので、フォローになりそうな言葉も後に足してみた。

「確かにあんたの親父はくそったれだよ。
 そんなふうに落ち込むのも仕方ない。
 長老が言ったように、
 わたし達にはまだ『楽しい家庭』を作る見込みがありそうだったからね」

 そう。
 わたし達の親は、少なくとも力の“とうさん”よりはわたし達の事を思ってくれていたのだ。



 力に平手打ちした、あの後、わたし達は王我の用意していた車に乗った。

『入り口に車を待たせてあります。
 それに乗れば、街の惨状を見る事も無く両親の元に返してあげますよ』
という言葉に疑いを持ってはいた。

 だけど、その時のわたし達は現状を完全に把握できず、混乱していた。
 従う以外の手段が浮かばなかった。
 今考えると、街の惨状を見るのは避けたい心理も働いたかもしれない。

 王我はわたし達が役に立ちそうにない遊び心の職種でゲームをクリアしたのを知っていた。
 だから、簡単に解放してくれた。

 だけど、もし戦争に役立つ職種だったなら、力のように兵器となる事を強制させられたかもしれない。
 ゲームの中ではあれだけ苦労させられた「盗賊」に感謝したくなった。

 車は街の中心部から離れた学校の前で止まり、わたし達を降ろした。

 そこは、このクーデターで帰る家を失った人達の避難場所となっていた。

 鷹貴や由宇香の両親、そしてわたしの両親もそこにいた。

待親

 そこでわたし達は真実を聞いた。
 力とわたし達では“GAME―パラレル―”に送られた理由が違っていたのだ。



 わたし達の両親はそれぞれの仕事の世界で高い地位にある。

 それぞれの両親は、その地位を使ったつてでクーデターが近々発生する可能性があることを知った。
 その情報を耳にしたほとんどの人は「そんなのデマだろう」と、自分の身近な場所で戦争が発生する事を信じなかった。

 そのデマとされた情報に耳を傾けたのが、わたし達の両親だったのだ。

 だけど、その情報を信じても、仕事が朝から晩まで詰まっていた彼らにどこかへ逃げる余裕など無い。
 しかも絶対安全なシェルター等を作る時間的余裕も無かった。

 問題にぶつかったわたし達の両親はいつの間にやら知り合い、集まって話し合いをするようになった。

 その結果、両親達がたどり着いた解決法。
 最高のシェルター。

 それが“GAME―パラレル―”だったのだ。

 最高のシェルターと言われればそうかな・・・と思えない事もない。
 別世界に移動するのだから、こちらの世界で何が起きようと関係がないという事は確かだ。
 この考えが妥当だったのかは、実際にその世界を体験したわたし達から見ると疑問だけどね。

 計画では“GAME―パラレル―”の世界に全員が逃げ込むつもりだった。

 だけど最後の詰めがあまかった。

 人数分“GAME―パラレル―”をプレイする許可が下りなかったのだ。

 その時、彼らは自分の愛する子供達を優先的に避難させる事に決めた。

 そういう事らしい。

 この話を聞いた時、それを先に言っとけと文句を言いそうになった。
 だけど、言われていたとしても鷹貴も由宇香も、そしてわたしも信じなかっただろう。
 だから、それに関しては何も言わなかった。

 だけど別件では3人とも口をそろえて、文句を言っておいた。

「逃げる方法を必死に考えるくらいなら、
 こんな状況にならないような方法を一生懸命考えてほしかった」
と。

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