力と別れてからの経緯を思い出していて、気がついた。

 この話を語っても、落ち込んでいる力を勇気付ける事はできない。

 この話からわかるのは、わたし達の両親は子供の事を思っていてくれたけど、力の親父は一切思ってくれてなかったという事実だけだ。

 まずい、まずい。
 落ち込んでいる人に更に追い討ちかけてどうするのさ!

 心の中で自分の頭にツッコミのチョップをかましながら、わたしは力を励ます事のできる別の話題を考えた。

 心持ち視線を上方に向けて考えてみたけれど、全く浮かばなかった。

 口べたな自分に心の中でさっきの倍チョップをかましながら、わたしは取りあえずココに来た「理由」を力に手渡した。

2人をつないだ物

 力は自分に手渡された物が一瞬何なのか分からず、キョトンとしていた。
 だけど、すぐに思い出したようだった。

「これは、僕の参考書?」
「そう」

 この様子からすると、力は今まで無くしている事にすら気がついていなかったみたいだ。

「どうして神楽がこれを?」

 再びキョトンとしている力。

 わたしは視線を逸らしながら、口をモゴモゴとさせて小さな声で説明した。

「ほら・・・わたしさ。あんたを・・・な、殴ったじゃない」
「ああ、そうだったね」

 力はウンウンと頷いた。
 その表情に殴られた事に対する怒りは感じられなかった。

 少しホッとして、わたしは話を続けた。

「その時、わたしの例の能力が働いてたんだ」

 そこまで言うと、力は話の続きを察してくれた。

「あ!
 『攻撃した相手の所持品を盗む能力』」
「そう」

 あの時、自分の意思もなく、ただひたすらに親父に従おうとする力にイライラした。
 だから、つい1発殴ってしまった。
 その後もフガフガ怒っていたので、力の参考書を奪っているのにしばらく気がつかなかった自分もマヌケだけどね。

 “盗賊”という職業に任命はされても、人の物を黙って失敬する気は今のわたしにはない。

 だから、わたしは絶対にこの本を力に返さなければならなかった。
 だから、わたしはココに来たのだ。

 他意はない。
 ええ、ありませんとも。

「これを僕に返すためにココに来たって事?」
「そう」

 今度はわたしがウンウンと頷いた。

 すると、小さくだけどクックッとこらえた笑い声が聞こえてきた。

「む、無謀にも程があるよ・・・」

 年のわりに幼い、だけど整った顔立ちの力。
 その顔が笑顔の表情でクシャクシャにゆがんだ。
 すると、大体が童顔なのに更に幼く見えた。

 あれ?
 これに似た顔、どこかで見た気がする。

 でも、今は力が誰かに似ている事などどうでもいい事だ。

 笑っている力から少しだけ生気を感じられるようになった。

 今なら更に力を励ませるかもしれない。

 わたしは口を開いた。

 励ます言葉を必死に考えると、逆に何も言えなくなる。
 だから、自分が今思っている事を正直に話してみた。

「力、あんたさ。
 あの親父のために自分の感情が左右されるなんて腹立たない?」

 そう言われると、力は笑うのを止めて複雑な表情になった。
 どうやら腹は立つみたいだ。

 その表情に満足しながら、わたしは後を続けた。

「そう、腹は立つよねぇ。だからその腹立った分はきっちりと親父に返す!」

 わたしは右手でグッと握り拳をつくって、主張した。

「返すって・・・どうやって?」

 その疑問に答えるように、わたしがニヤリと笑うと力がビクッと震えた。

「復讐だよ、ふ・く・しゅ・う。
 あんな最低な親父の思い通りに事が進まないように妨害すればいいよ。
 あんたの魔法を使ってさ」
「え?」
「あの親父が期待していたあんたの魔法で、
 親父の野望を跡形もなくなるぐらい、グチャグチャに壊してしまいなよ。
 あんたを利用しようとした事死ぬほど後悔させてやればいい」

 そこまでわたしの話を聞くと、力は手をブンブンと振って拒否の意思を表現した。

「で、でも僕は戦争に魔法を使う気は・・・」
「それって人殺しになりたくないから?」

 わたしの雰囲気に気圧されながらも、力はコクリと頷いた。

 わたしは、たぶん力には思いもつかなかった事を言ってみた。

「別に魔法を使うって事が人殺しに繋がるわけじゃないと思うよ」

 力は目を丸くした。

「・・・それってどういう意味?」
「使い方によっては、
 人をできるだけ死なせないようにするために使う事もできると思わない?」

 常識からはずれた強大な能力。
 それは常識はずれな人数を一気に殺す事ができる。
 それじゃあ、逆に常識はずれな人数を一気に救う事もできるんじゃないだろうか。

 そんな能力を持ってしまったのならば、せめて自分が納得のできる使い方をしたい。
 それはわたしの甘い考えだろうか?

 だけど、目の前の力はわたしの話を聞いて、わずかに目がキラキラと輝きだした。

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