自分のこれからに思いを巡らせているらしき力を横目に、わたしは段々と腹が立ってきた。

 自分に敬意を示していた人間を、どうして王我はここまで簡単に突き放せるのだろうか?

 そしてその心境をつい口に出してしまった。

「大体あいつ何様?人を死ぬほど傷つけてさ、その上殺そうとするなんて―」

 心境を口にすると更に怒りは増幅した。
 とうとうわたしは頭から湯気が噴き出そうな勢いで怒り出した。

「ちょ、ちょっと声が大きい!」

 力に口を手で押さえられた。

 しまった、怒りのあまり声まで大きくなっていたか。

 周りに人の気配がしないのがわかると力は手を離し、そしてクスクスと笑い始めた。

「ありがとう神楽。わかった、僕もう死にそうな顔はしないよ」
「あ、そう。それはよかった」

 ニッコリと力は笑った。

 先程から比べると表情はだいぶ明るくなった。
 だけど、まだクスクスと笑っている。

「神楽、僕の分まで怒ってくれてありがとう。
 おかげで怒りとか悲しみの感情がかなり吹っ飛んだよ」
「・・・どういたしまして」

 感謝されてもあまり嬉しくない。
 だって、それってわたしの怒り顔を見て気が抜けたという意味だもんね。

あはは

「それじゃあ行こう。ココを右に曲がれば出口。
 少し歩くと鷹貴達がいるから」
「ああ、わかった」

 歩き出そうとして、再び足を止めた。
 そのせいで背中に力がドンとぶつかった。

 振り返り、力の方に向き直ると、力はどうしたのという顔をした。

「あの、出る前にこれだけは言わせて」
「何?」
「自分が今まで信じていたものを捨てて、本当に正しいと思えるものを選んだあんたは偉いよ。
 わたしはあんたを尊敬する」
「あ、ああ。やっぱりとうさんとの話聞いてた?
 そうか、タイミングよすぎたしね」

 ハハハと力は力無く笑った。

 真剣な話を聞かれていたのが恥ずかしかったみたいで顔を真っ赤にした。

 だけど、いきなり真剣な顔に戻り、こう答えた。

「でも、僕は神楽を尊敬するよ。
 魔法で皆が動かないとはいえ、こんな敵だらけの建物の中に入れるなんて勇敢だよ。
 鷹貴達には反対されなかった?」

 ・・・実を言うと、された。
 それも大反対。

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