避難場所の学校を抜け出そうとした時も、今いる立ち入り禁止区域に侵入しようとした時も反対された。
 だけど、この建物に入ろうとした時は今までとは比較にならないほどの大反対をされた。

 あの時、建物に入ろうとするわたしの腕を、鷹貴は強くつかんだ。

「神楽ちゃん、危険だ。あそこは敵の本拠地なんだよ」

「でも、今動いているのはわたし達だけじゃん。あそこまで行くなんて簡単だよ」

 この時、力の魔法の効果で戦っている兵士も建物の上の兵士も動きを止めていた。

「今は、そうだね。でもこの魔法も時間が経てば効果は消える。
 行かせるわけにはいかないよ。
 大体が今ココにいることだけでも、すごく危険なんだ」

 正論だ。
 鷹貴のいう事は正しい。

「わかってる!
 でもわたし達だけが動ける、これは力が助けを求めているってことじゃないの?
 力に殺す気があったなら、今頃みんなもう死んでる」
「そうかもしれない。だけど・・・」

 まだ何かを言おうとした鷹貴を遮り、わたしは叫んだ。

「えぇーい!何と言われようがわたしは行く!鷹貴の意思なんて知らないよ」

 学校を抜け出す時も、今いる立ち入り禁止区域に侵入する時も、最終的にわたしはこんな風に駄々をこねて強行突破した。

 自分勝手だとは思う。

 だけど、あの場所に自分の仲間がいると思ったら、落ち着いてなんかいられなかった。



 家でも、学校でも、それ以外の場所でも、わたしは今までずっと1人ぼっちだった。

 芸能人の娘ということで、みんなわたしを特別視した。
 いじめにもあった。

 だから、わたしは1人でも平気でいられるぐらいに強くならなければいけなかった。

 親も友達も必要としないために。

 だけど今のわたしには仲間がいる。
 1週間ちょっとの間、大騒ぎをしながらゲームをクリアしたというだけの仲間だけど、それでもわたしにとってはとても大切だ。

 頭に血がのぼって冷静に考えられないわたしに鷹貴は頭を抱えたけど、少し考え込んだ後、こう言った。

「わかったよ。
 でも力を見つけたら、連れてすぐココに戻ってくるんだ。
 それにウンと言わない限り、俺は納得しないからな」



 背後から2、3人こっちの方向に走ってくる音が聞こえた。
 そうだ、物思いにふけっている場合ではなかった。

「まずい、誰か来た。走るよ!」

 そう言って、わたしは力と一緒に走り出した。

「絶対に生きて帰ろう」

 力の声が背後から聞こえた。
 声には出さずに頷いて返事をした。

 うん。
 わたしは絶対にココから帰る。
 そして帰ったら、今までできなかった事をやってやる。

 せめて力の半分ぐらいは素直になって、両親に寂しかった事も悲しかった事も全部言いたい事を思う存分言ってやる。

 長老が言っていた『楽しい家庭』をわたしは作るんだ。
 その時、このお坊ちゃんも側にいたら、さらに楽しいかもね。

 そのためだったら、わたしは「盗み」も悪い事も絶対にしない!

走り出す


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