未成年に対する戦争への参加依頼。
少々の沈黙の後、
「いいですよ」
と予想外にも最初に力が返事をした。
オレと由宇香ちゃんはギョッとした。
オレ達4人の中で1番最初に力が返事をするとは思わなかった。
「ただ、条件をつけてもいいですか?」
と兵士に訊ねながらも、力は返事を待たずに話を続けた。
「僕は敵の兵士を無力化するような能力を使って手伝います。
ただ、それは相手の命を奪いません。
それでも、僕に人殺しを強制しないでくれますか?」
その条件は子供特有の甘い考えだとオレは思った。
確かにオレ達は「誰も傷つける事なく、みんなが幸せでいられるような世界」を夢見るように教育されてきた。
しかし、それは「そうだったらいいね」という願望であり、現実は異なる。
ココは戦場なんだ。
人が命を奪い合う場所だ。
殺さなければ殺される場所なんだ。
子供の頃は夢見る事の大切さを教えられる。
しかし年をとればその教えは徐々に撤回され、夢を持つ事の無意味さを説かれる。
そしてココは残酷な程に現実の場所だ。
それでも、できるならばオレだって誰も傷つけたくはない。
それは誰のためでもない。
「慈愛の精神・・・かい?」
「いいえ、僕自身のためです」
力が兵士に人殺しを避ける理由を伝えていた。
オレも同じ気持ちだった。
戦争から帰還した兵士が悪夢にうなされるという話を聞いたことがある。
戦争は終わっても、夢の中で心が再び戦時中に立ち戻る。
敵兵と戦う。
敵兵を殺す。
味方が殺される。
自分も傷つく。
それが眠るたびに繰り返される。
もちろん悪夢の原因は己の為した人殺しだけではないだろう。
だけど、人殺しが大きな一因なのも間違いない。
オレだって、そんな風に消えない心の傷を作りたいとは思わない。
「その条件が認められるならわたしも手伝うよ。力が王我軍に狙われないように守る」
神楽ちゃんが右手を挙げて返事をした。
それにしても、人殺しをしてしまう可能性だけではなく、自分が殺される可能性もあるこの事態に君たちは簡単に答えをだしたな。
「あいつの野望を阻止するぞ!」
と神楽が掛け声をかけて、力と神楽が腕をクロスした。
2人のこの連帯感は何なのだろう?
中で一体何があったんだ?
「・・・わかった。その条件を呑もう」
苦悶しながら、兵士は条件に応じた。
不利な状況にある今、多少の無理があっても強大な戦力になりそうな人間を手放すわけにはいかない。
そういう事だろう。
「それで君たちはどうする?」
兵士がオレと由宇香ちゃんを見た。
「この人はやる気みたいよ」
と言って、由宇香ちゃんはオレを見た。
皆の注目がオレに集まる。
視線が痛い。
「あれ、そのバックは何?」
神楽ちゃんがオレの担ぐバックに気づいた。
「ああ、これ・・・」
と事情を話そうとした横から、由宇香ちゃんが説明した。
「鷹貴が人のいいおじ様から強奪したのよ」
嘘八百だった。
『お前、この緊急事態に何をやっている』という非難の目がオレに集中した。
「ち、違う!借りただけ、借りただけだ。
オレは後でしっかり返すぞ」
オレは『緊急事態に何故こんなつまらない嘘つくか』という非難の目を由宇香ちゃんに向けた。
しかし、彼女はオレの視線に気がつかず、ただジッと地面を見つめていた。
実は先程のおっちゃんから、オレは金の入ったバックを借りていた。
オレは『商人』。
金がオレの武器だからな。
突然、神楽ちゃんが険しい顔になり、叫んだ。
「この場から離れて!」
その剣幕に驚き、即座にみんな飛び離れた直後、銃声が響いた。
先程までオレ達がいたところに何十発と言う弾が降り注いだ。
王我軍の兵士4人の発砲だ。
しかし、不意討ちに失敗した彼らはもうその時点で負けも同然だ。
1人目を力が最弱の火魔法で銃を飛ばし、2人目は神楽が蹴り倒して武器を盗み、3人目は政府軍の兵士が銃で撃った。
そして4人目はオレの投げた紙幣が銃身を切り裂いていた。
そう、オレが使ったのは「銭投げ」だ。
こんな金の使い方、オレは大嫌いだ。
認めない。
でもそれが経済活動の意味を持つ金を取り戻す力になるのなら、こんなわけのわからない戦いを終わらせる力になるのなら何千何万でも使ってやる!
今までウダウダと考えてはいた。
だけどオレは、あのおっちゃんから金を借りた時から既にそう決意していたのだ。