その兵士の視線の先は力君。
どう考えても彼を狙っているとしか思えなかった。
幸運にも、兵士の方は私の存在に気がついていない。
だけど、このままでは力君が危険なのは明らか。
お願い、誰か早く気がついて。
でも私の願いは届かず、力君達や政府軍の兵士の注目は逆方向に向いたまま。
私はどうすればいいのかわからなかった。
王我軍の兵士に見つからないように隠れつつ、力君達とこの兵士を交互に見るしかできなかった。
そんな事をしている内に、兵士はニヤリと笑い、手にした銃を力君のいる方向に向けた。
その瞬間、私は兵士に向かって駆け出してしまった。
どうして飛び出してしまったのだろう?
そんな事、私にだってわからなかった。
今更、私が兵士の所に向かっても、発砲する前にはたどり着けない。
例えたどり着いたとしても、きっと何も出来ない。
単に殺されておしまい。
そうに違いない。
そう思いながらも、私の足は止まろうとはしてくれなかった。
足を前に進めながら、私は力君のマネをするかのように呪文を口にした。
「ストップ」
と。
悔しかった。
私が力君のように魔法が使えるのならば、目の前のあの男の動きを止めることができた。
私が神楽ちゃんのように機敏に動けるのならば、あの男に瞬時に近づいて武器を奪えた。
だけど私は力君じゃない。
神楽ちゃんでもない。
私は何もできない。
役立たず!
役立たずなのよ!