その兵士の視線の先は力君。
 どう考えても彼を狙っているとしか思えなかった。

 幸運にも、兵士の方は私の存在に気がついていない。

 だけど、このままでは力君が危険なのは明らか。
 お願い、誰か早く気がついて。

 でも私の願いは届かず、力君達や政府軍の兵士の注目は逆方向に向いたまま。

 私はどうすればいいのかわからなかった。
 王我軍の兵士に見つからないように隠れつつ、力君達とこの兵士を交互に見るしかできなかった。

 そんな事をしている内に、兵士はニヤリと笑い、手にした銃を力君のいる方向に向けた。

 その瞬間、私は兵士に向かって駆け出してしまった。

 どうして飛び出してしまったのだろう?
 そんな事、私にだってわからなかった。

 今更、私が兵士の所に向かっても、発砲する前にはたどり着けない。
 例えたどり着いたとしても、きっと何も出来ない。
 単に殺されておしまい。
 そうに違いない。

 そう思いながらも、私の足は止まろうとはしてくれなかった。
 足を前に進めながら、私は力君のマネをするかのように呪文を口にした。

「ストップ」
と。

 悔しかった。
 私が力君のように魔法が使えるのならば、目の前のあの男の動きを止めることができた。
 私が神楽ちゃんのように機敏に動けるのならば、あの男に瞬時に近づいて武器を奪えた。

 だけど私は力君じゃない。
 神楽ちゃんでもない。

 私は何もできない。
 役立たず!
 役立たずなのよ!

悲愴


 役立たずな自分を嘆き、涙を流す私。
 だけど、ある事に気がついた。

 兵士がニヤリと笑みを浮かべ、銃を力君に向けたまま固まっていた。
 100メートル程離れていた兵士が目の前に立っていた。

「!」
「きゃあ!」

 固まっていた兵士はすぐに動きが戻り、私の存在に気がつく。
 だけど兵士が何かしらの行動をとる前に、私は彼に平手を一発くらわした。

 兵士は尋常ではない程に吹っ飛び、その威力に私も驚いた。
 そして、兵士が手にしていた武器がいつの間にか自分の手の中にあった。

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