自分の武器を奪われた兵士は一目散に逃亡した。
そして、逃亡する兵士を尻目に私は手の中にある銃の感触を確かめていた。
口にした言葉で相手に魔法をかける。
それは力君の能力。
相手に暴力をふるった時、その人の所有物を盗む。
それは神楽ちゃんの能力。
どうして自分がこの2人の能力を使えたのだろう?
…ううん、本当は知っている。
私はブン君が言っていた事を思い出していた。
“GAME―パラレル―”で力君達と出会った直後、私は自分が戦いで何も出来ない役立たずである事を知った。
その事実に落ち込む私を慰めるため、ブン君がある話をしてくれた。
「“自由人”はね、確かに役立たずの職かもしれない。
だけど、一番大化けする可能性のある職業なんだ」
そこで言葉を一旦切って、ブン君はこう続けた。
「まあ、ある程度レベルをあげる必要はあるけど、あげればすごいんだよ」
「それって強い能力をもらえるって事なの?」
私はほんの少しだけ希望を持ってブン君を見たけど、ブン君は困った顔をした。
「ううん、強くはないよ」
再びガックリと落ち込む私。
その私の周りを飛びながらブン君は話を続けた。
「強くはないけど、面白い能力だよ。
他の職業の能力を自分のモノにできるんだ。
まあ、威力は2分の1になっちゃうけどね」
「他の職業の能力を自分のモノに?」
「そうだよ。
大体“自由人”っていうのは“自由になんでもなれる人”っていう言葉の略なんだ。
“自由になんでもなれる人”じゃ名前としては長すぎるでしょ」
そこでブン君は再び困った顔をして一言。
「ただね、別の職業の力が欲しいと強く願わないと、この能力は発現しないという問題があるんだ。
それに君は別の問題もあるみたいだし」
「別の問題?」
キョトンとする私をブン君は真剣な顔で見つめた。
「自分は何もできないんだという思い込みを捨てる事。
自分の事を自分で見限っている限り、この能力は発現しないよ」
「えっ」
ギクッとした。
確かに私は自分を見限っている。
だけど、その事をどうしてブン君が知っているの?
困惑する私にブン君はニッコリと笑いかけてくれた。
「どうしてそんな事を知っているのか、不思議に思ってる?
“GAME―パラレル―”のシステムが知っているんだよ」
「システムが?」
「そう、この世界に来る前に自分の情報を登録したよね?」
確かに私は“GAME―パラレル―”を始めた直後、真っ暗な空間で誰かと話をした。
その人は私から情報を聞き、プレイヤーの登録をすると言っていた
でも、その人にも私は「自分を見限っている」なんて話はしていない。
「登録時の情報で“GAME―パラレル―”プレイヤーの性格を分析する。
その性格や能力を基にして職業を任命するんだ。
質問に答えて、性格を診断するのは現実世界でもあるよね?」
「…そうね。あるわ」
能天気で明るい、今どきの女の子を演じていたつもりだった。
だけど、この“GAME―パラレル―”には最初から私の本質がばれていたのね。
あはは、馬鹿みたい。
ブン君は丁度私の目の前で羽ばたきながら、私の瞳を見つめた。
「確かに君は何もできない。でもそれは今の君が、でしょ?
将来の自分まで見捨てたらダメだよ。
君は何も持っていない。
だからこそ、まだ“自由になんでもなれる人”なんだから」
そう言ったブン君の声は穏やかだった。