15.再び


 僕が魔法で時間を止め、その間にとうさんの軍の兵士を拘束する。

 順調に事は進んでいた。
 順調ゆえに単調でもある作業。

 その間でも、僕はとうさんが最後に言った言葉が頭から離れなかった。

 『こんなことなら父親と同じように最初から始末しておけば良かったよ』

 前にも説明したと思うけれど、僕の実の父、結城 遥(ゆうき よう)は僕が生まれる前に失踪した。
 その事を僕は“父さんは母さんと僕を捨て、どこか別の所に行ってしまったのだ”と、今まで理解してきた。

 しかし、とうさんの言った言葉を信じるならば、僕の父さんはとうさん…いや王我に殺されていた事になるのだ。
 しかも、そのせいで貧しさにあえぐ僕達親子を救ったように振る舞い、その上自分が殺した人間の息子を上手く利用しようと考えていた。
 そういう事になる。

 …信じたくない。
 それが事実なのだとしたら、今までの僕の人生は一体何なのだろうか。
 まさしく、王我の手のひらで踊っていたとしか言いようがない。

心に残された言葉

 今の僕は王我に対する怒りよりも悲しみの方が勝っていた。

 油断すると、膝をついてうなだれてしまいそうになる。
 そんな僕を神楽や鷹貴、由宇香さんが必死に守ってくれていた。

『腹立った分はきっちりと親父に返す!』

 これは神楽が言った事だ。

 この言葉を思い出すと同時に、王我に対して自分の事のように怒ってくれた神楽も思い出した。
 周囲は敵だらけという状況も気にせず、顔を真っ赤にして怒っていた神楽。
 その時の表情を思い出して、少しニヤッとしてしまう。

 うん、そうだ。
 悲しむのは、別に今でなくてもいい。

 今、僕は今までのお礼も兼ねて王我に恩返しをしている。
 この恩返しに今は集中しよう。
 もちろん嫌な恩返しだけどね。

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