「王我がいないぞ!」
建物の中で、誰かが大声で叫ぶのが聞こえた。
僕達はすぐにその声がした方に視線を向けた。
王我がいない?
何故?
逃げる道なんてどこにもなかったはずだ。
「側近から話を聞きましたが、奴は1時間程前から既に姿が見えなかったそうです」
と、建物から戻ってきた兵士が上官に報告した。
政府軍がザワザワと騒ぎ出す。
当然だ。
主犯格は絶対に捕らえる必要がある。
政府軍は建物を中心にして、周囲の捜索を始めた。
残った王我軍の強襲も警戒しつつなので、これはとても大変な作業になった。
僕達も手伝った。
数時間後、
「ここに抜け道があるよ」
という神楽の声で、疲弊しつつあった政府軍が色めきだった。
兵士達が、発見した抜け道に集まる。
僕達も近寄ろうとした。
だけど、政府軍の人達に前を阻まれてしまった。
おまけに神楽も兵士に伴われ、僕達の所に戻ってきた。
「ここは我々が向かう。
君達は待っていなさい。
これ以上、危険な目にあわせるわけにはいかない」
兵士の言葉に当然だと頷きながらも、心のどこかでここまでやらせておいて何を今更と思ってしまった。
本当は王我にまだ聞きたいことがあった。
先発隊の十数名が装備万端の状態で抜け道に入っていった。
30分程経過すると、数名の兵士が戻ってきて上官に耳打ちをした。
何を聞いたのかわからなかったけれど、しばらくすると今度は数十名の兵士が抜け道に入っていった。
更に約30分経過した。
先程よりも多くの兵士が戻ってきた。
誰も怪我はしていない。
どうやら戦闘にはならなかったようだ。
戻ってきた兵士は上官に何かを報告した。
それを聞いた上官は何とも言えない微妙な顔で僕達を見つめた後、歩み寄ってきた。
「力君、鷹貴君、それと神楽さんに由宇香さんだったかね。
この兵士達について行ってくれるかい。
君たちを呼んでいる者がいるそうだ」
抜け道は建物の地下に通じていた。
地下通路を数名の兵士と僕達4人が歩く。
地下というものが元々そうなのかもしれないけれど、この通路の空気は湿っている。
じめじめとした空気の中にカツカツという足音が響く。
僕はすぐ目の前を歩く兵士に訊ねてみた。
「あの、誰が僕達を呼んだんでしょうか?
それと、あと、もう王我は見つかったんですか?」
僕のその質問に兵士はウーンと唸った後、答えた。
「王我は…捕まえたといって良い状況なのか私にも判断がつきかねる。
呼んだ相手は今からいけばわかるさ。
とにかく相手が君達を呼べと言っているんだ。
ほら、ココが出口だ」
兵士は行き止まりの道の天井を指差した。
天井からわずかに光が漏れている。
天井にドアがあるのだ。
よく見ると、目の前の壁に上り下りするための取っ手がついていた。
先に上った兵士に続いて、僕は天井のドアから外に出た。
「ふぅ」
湿っぽい空気を体内から排出するために深呼吸をした後、僕は周囲を見回し、そして驚いた。
僕にとって見覚えのある場所だったのだ。
「ココは…」
「どういう事だ?」
「これは一体?」
神楽達も外に出た後、口々に疑問の言葉を発した。
黒光りしている大きな鉄のドア。
僕達は“GAME―パラレル―”の本体がある部屋の前にいた。