16.ラストボス
僕達は以前と同じように自分の姿も確認できない闇の中にいた。
ただ以前とは異なり、僕達以外の誰かが話をする小さな声が聞こえた。
時々ザザッと雑音が入り、録音された声を再生しているようだ。
そして、その話し声はだんだんとボリュームが大きくなり、最後には僕達の耳にハッキリと聞こえるようになった。

『申し訳ないが、その件は断らせていただくよ』
『何故だ?
この話にのれば、資金は現状の倍になる。
いい条件じゃないか』
何かしらの提案を断られたという状況のようだ。
提案を拒否した誰かが、もうひとりの誰かを諭すように言った。
『金の問題じゃねぇんだよ。
俺はコレを子供の娯楽のために作っている。
軍事の為じゃない』
『…』
『確かにコレを使えば、仮想世界で仮想の敵を相手に思う存分軍事演習ができる。
とても役立つだろうな』
仮想世界?
もしかしてこの人達は“GAME―パラレル―”に関する話をしているのだろうか?
その時、相手に投げつけるような鼻で笑う声が聞こえた。
『ハッ、それだけじゃないさ。
君が大事にしているそれには特典があるんだろう?
それが軍事力を高める最大の力になるんだよ』
先程の僕の仮定が正しければ、この特典とは“GAME―パラレル―”クリア後に僕達が得た特殊能力の事だろう。
少しの間、静寂がこの空間を包んだ。
その後、提案を拒否した誰かが口を開いた。
『…何故それを知っている?』
『さあ、どうしてだろうね』
『…まあ、構わないさ。
あんた達が今後コレを悪用できる機会はないからな。
特典も現実世界に大きな影響を及ぼさない程度の能力しか与えない予定だ』
その言葉を聞いて、もうひとりは深くため息をついた。
『親友だと思っていたんだがな、実に残念だよ』
チャッという小さな音が聞こえた。
すると、その行為に動揺する声が響いた。
『な、何をする気だ。
王我!』
僕は息をのんだ。
王我?
この空間に響く声、その内の1人は王我?
そう言われてみると若々しくはあるけれども、聞いたことのある声だった。
王我と呼ばれた声の主はクククと笑いながら、こう返した。
『本当に残念だよ、遥』
……遥?
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