僕の疑問を吹き飛ばさせるかのように、闇が一瞬にしてかき消えた。

 そして僕達は見覚えのある緑の平原の世界に立っていた。

 小高い丘。
 そうか、ここはゲームのスタート地点か。

 さっき聞こえたのは何だったのだろうと誰かが口にする前に、遠くで僕達を呼ぶ声が聞こえた。

 声が聞こえた方向を向くと、その誰かが僕達に駆け寄ってきていた。
 小さな身体に長い耳、妖精の村の長老だった。

「おひさしぶりです」
「ひさしぶりー」

 長老の髪の中からブンも飛び出した。

 僕達も2人に久しぶりと返事をした。

「あ!ブン君、聞いて。
 私、自由人の能力使えるようになったのよ」

 由宇香さんの報告にブンはニコッと笑った。

「へー、そうなんだ。良かったねぇ。
 でも知ってる?
 自由人にはまだ別の能力もあるんだよ」

 僕を除く3人とブンが話をしている。
 会話の内容は聞こえていた。
 だけど、今の僕はその輪の中に入って騒ぐ気がしない。

 闇の中で聞こえた声の内容が気になって仕方がなかったのだ。

 このままではしばらく会話が途切れそうにないと判断したんだと思う。
 腕をブンブンと振って、長老が会話に割って入った。

「申し訳ないですけど、悠長に話をしている場合じゃありません。
 僕達は道案内を上から命令されてココに来ました。
 至急あなた達を目的地に連れていかなくてはいけないんです」

 ブンも3人もハッと現状を思い出したようだ。

「ゴメン、そうだった。
 みんな長老の腕をつかんで!
 行くよ!」

 長老の髪の毛の中からブンが腕をつきあげ、僕達をせかした。

「ちょ、ちょっと待って!
 訊きたい事があるんだ」

 僕は長老とブンに闇の中にいた時に聞こえた声のことを説明した。

「…声ですか。
 おそらくそれは誤作動ですね。
 過去に保存しておいた音声記録が流れたんだと思います」

「それじゃあ、さっきの声の続きは?」

 長老がポリポリと鼻を掻いた。

「検索をすれば見つかると思います。
 でも相当時間がかかりますね。
 それは今すぐでないと駄目なのですか?」

困りました


 長老のどうにも困った顔を見て、僕は我にかえった。

 そうだ、今はそれどころじゃなかったんだ。
 王我を早く止めなければいけない。

「ごめん、今はそれどころじゃなかったね。
 早く行こう」

 僕がギュッと長老の腕をつかむと、あとの3人も次々と長老の腕をつかんだ。

 僕達全員つかまった事を確認した後、ブンが小さな石を地面に叩きつけて割った。
 すると、割れた石から大量の青い煙が発生し、周囲の状況が全く分からなくなった。

「今、絶対に手を離したら駄目だよ。どこか別の場所に飛ばされるからね」

 ブンの忠告にも僕は上の空だった。

 追求するのはあきらめた。
 だけど、先程の声の内容を僕は忘れられなかった。

 駄目だ、今はそれどころではないんだ。
 今だけで、今だけでいいから、僕はその事は忘れなくてはいけない。

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