長老の言葉が聞こえたらしい。 王我は僕達に答えを返してきた。 「その通り、ワタシは王我だ。 何故だかわからないが、 何度試みてもワタシは魔王としての役目を与えられてしまうのだよ」 そこで自嘲的に王我はクククと笑い、ゆっくりと僕に近づいてきた。 「魔王というキャラクターではゲームのクリアができない。 つまりクリア時の特典は得られない。 ハハハ。緊急用プログラムの存在を知ってさえいれば、力を利用する必要もなかったのにな」 王我は僕の前でピタリと立ち止まった。 目の前の人物が放つ冷たい殺気に凍らされ、その場を動くことができない。 「力、予想外にもお前は非常に役立たずだった」 先の尖る鋭い爪で、王我は僕の顎をしゃくりあげた。 |
目と目が合う。 その瞳は怒りに満ちていた。 逃げなくては。 そう思ってはいても足が震え、体が動かない。 王我は僕を見つめた後、ニヤリと笑って言葉を続けた。 「それどころか、お前はワタシの計画を見事に頓挫させてくれた。 全く見事なものだ」 その瞬間、周囲によどんでいた殺気が弾けた。 僕の顎をしゃくりあげている手とは逆の手を振り上げる王我。 鋭い爪が妖しく光る。 その手が僕に向かってくるのを見て、僕はたまらず目を閉じた。 皮膚を裂く一撃が来る! 来る! 来る。 …来る。 ……来ない。 いつまで待っても、僕に衝撃はやって来なかった。 おそるおそる目を開けると、王我は僕の左横に転がっていた。 神楽だった。 王我が僕に一撃を加える直前、神楽が強烈な飛び蹴りをくらわしていたのだ。 「こ、このクソガキッ!」 「ふん、あんたの目の前にいるのは力だけじゃない。 格好つけて、油断している方が悪いよ」 浮き出た血管がきれそうな程、王我は怒りをあらわにした。 しかし、すぐ冷静になり、僕達の近くから飛びさり間を取る。 そして高らかに笑った。 「ハ!馬鹿が。 緊急用プログラムはワタシが持っているんだぞ。 戦わずともお前達のデータを消去するだけでお前達は死に、ワタシは勝利するのだよ」 僕達の血の気がサッとひいた。 そんな方法があったなんて予想もつかなかった。 僕達のデータを消去する。 それだけで人を殺す事ができるなんて。 黒と緑の空間に王我の笑い声が響く。 しかし、その笑い声は徐々に小さくなり、ついには止まった。 自分の懐をゴソゴソとあさり、まるで何かを探しているかのようだ。 「ねえ、長老。これいる? わたし使い方知らないからあげるよ」 僕の横にいた神楽が、長老に何かを投げて渡した。 そして王我の方を見てニヤリと笑う。 小悪魔の笑みだ。 その様子を見て、王我が長老を指差したまま固まった。 長老が今手にしているもの。 それは緊急用プログラムだった。 そうか、『盗賊』の攻撃した時に相手の物を盗む能力だ。 |
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