転がる地球に跳ね飛ばされ続ける僕達。

 みんなが既に準備万端なのを確認し、僕は跳ね飛ばされた直後にすぐ立ち上がった。
 そして、あの最強魔法を使うために必要な言葉を口にし始めた。

「“世界の終末まで封印されるべき忌まわしき力、強大な力よ”」

 当然、王我はその行動にすぐに気がついた。

「させるかっ!」

 そう言って王我は右手を掲げようとする。

 しかし、その時に何かが王我の右腕をシュッとかすめ、切り裂いた。

「うあぁっ!」

 悲鳴をあげて、王我は腕を下ろしてしまった。

 右腕を庇いつつ、キョロキョロと王我は周囲を見回す。

 シュッシュッと聞こえる連続音。
 その音とは別にハラハラと落ちてくる物体がある事に、王我は気がついたようだった。

 その物体とは紙幣。

 王我の遥か真下。
 鷹貴が間を空けず、王我に向かって手裏剣のようにして紙幣を投げていた。
 そう、商人の能力『銭投げ』だ。

 王我が鷹貴に気を取られている間に僕は言葉を続ける。

「“今ひととき我に力を貸したまえ”」
「……!」

 僕の声が聞こえた王我は、飛んでくる紙幣を避けつつ再度右手を掲げた。

 周囲が宇宙空間に変化し、転がる地球がそこにいる人を跳ね飛ばしていく。
 魔法の言葉を口にしている途中だった者も跳ね飛ばされた。

「ハハ、馬鹿が!
 むざむざ最強魔法など使わせるか!」

 笑う王我。

 だけど、よく見ればすぐに気がついたはずだ。
 王我の能力が今回跳ね飛ばした人間は3人。

 神楽と鷹貴と僕…の格好をした由宇香さん。

「王我。やっぱり、あなたも知らなかったのね。
 自由人は能力が向上すると、力を借りる相手の姿も借りる事ができるようになるんですって」

 由宇香さんは柔らかに微笑んだ。

 ブンが先程再会した時、由宇香さんに説明していた。
 “自由人”は“自由になんでもなれる人”の略称。
 彼女はなんにでもなれる。
 魔法使いにも盗賊にも商人にもなれる。
 その時、能力だけではなく姿も借りる事ができるのだと。

 僕がいない。
 その事実に気がついた王我は遥か真下を見ていた反動からか、今度は自分の遥か上を見た。
 本来なら、その方向に誰かいる訳がない。

 だけど、いた。
 王我の上方には、影がひとつ。
 何か言葉を発している、影がひとつ。




 ブンが以前説明してくれた。
 鷹貴の『銭投げ』はお金を投げて攻撃をする技。
 ビルのような大きな物でも、お金をまき付けてしまえば投げることが可能だと。

 だから、上方にひとりの影がひとつ。

 王我の少し上方、腰周りにお札を巻きつけた人間がひとり。
 『銭投げ』のお金として、鷹貴に投げてもらった人間がひとり。




「“この世に存在する者、存在無き者までも燃やし尽くす業火よ”」

 鷹貴が投げた紙幣は目くらましになってくれた。
 僕の姿をした由宇香さんはおとりになってくれた。




 だから、途切れることなく言葉を口にすることができた。

 地球がみんなを跳ね飛ばしている時、僕は宙にいたのだから。


感謝と復讐


 最後の言葉を発する直前、僕は王我と目が合った。

 僕は心の中だけで言葉を発した。

 とうさん、僕はあなたに感謝しています。
 あなたは僕をここまで育ててくれました。
 だけど、それと同時にあなたは、僕を、母さんを、父さんを苦しめた元凶だったのですね。

 だから、今までの様々なお礼をこめて、この1発を放ちます。

「“アルティメット・ファイヤー!”」

 杖の先から出たすさまじい炎は確実に王我を捕らえ、悲鳴をあげさせる間も与えずに彼を赤い衣に包んでいった。

前へ  次へ


戻る