17.おとうさん
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赤面している僕に鷹貴が、 「お疲れさん」 と言って、頭をポンと叩いた。 目の前に全身が真っ黒になった王我が横たわっている。 それを見て、僕は全身の力がぬけ、座り込みそうになった。 だけど、どうにか踏みとどまり王我に視線を向けた。 これで終わりだ。 全てが終わったんだ。 4人同時に横たわる王我に近寄った。 やはり全身が真っ黒だ。 だけど、王我は僕達が近づく音を聞き、頭を動かした。 腕も足も普通どおりに動くようだ。 この状態でも動く事ができるのは、やはりここが現実世界ではないからなのだろうか? 王我の足が薄く、透明になりつつある。 以前魔王を倒した時のように王我は消滅するのだろう。 これで王我はゲームオーバーだ。 王我は強制的に現実世界に戻る事になる。 しかし、僕達の姿を確認した王我は黒い顔を歪ませて薄く笑った。 「これで終わったと思うなよ」 「…どういう意味なのかしら?」 由宇香さんが問う。 「ワタシを倒せばワタシ自身が強制的に現実世界に戻らされると思っていたのかね? それは間違いだ」 王我の言っている意味が僕達には全くわからない。 「魔王は死亡してもゲームオーバーにはなりません。 つまり王我は倒されても、ゲームオーバー扱いになり現実世界に戻らされる事はない。 そういう事です」 すぐ真後ろから突然長老の声が聞こえ、僕はビクッとした。 いつの間にか僕達の背後に長老とブンが立っていた。 「だったらこの後どうなるんだ?」 という鷹貴の質問に、今度はブンが答えた。 「魔王はこの場所に復活するよ。 ラストボスだから不在は許されないもん」 王我がニヤリと笑った。 「そういう訳だ。 ワタシはワタシの意思のみでこの世界から抜け出す事ができる。 復活すればワタシはまた緊急プログラムを盗むぞ」 「そんな事させないよ」 瞬時に僕が反論する。 その言葉を待っていたかのように王我は更に顔を歪めた。 「そうか、そうか。 では全力をもって、またワタシを止めればいい。 それでだ、いつまでそれを繰り返すつもりかね?」 「…そういう事か」 神楽が頭を振りつつ、ハァとため息をついた。 何度倒しても、王我はこの場所に復活する。 そして、緊急プログラムを奪おうとする。 それを阻止しようとするのならば、僕達はずっとこの場所にいなければならない。 つまり、現実世界には戻れない。 僕達がいなくなれば王我が緊急プログラムを奪ってしまう。 僕達は仮想世界で王我と永遠に戦い続けなければいけないのだ。 いや、現実世界から他の人を連れてくれば永遠に戦う必要はないかもしれない。 だとしても、この世界でその人達が王我と張り合えるような力を持つまでは僕達が戦わなければいけないだろう。 先の事を考え、沈み込む僕達。 この一連の状況を見て、誰かがクククと声を出して笑い始めた。 そして、ついには堪えきれず、 「ハーハッハッハッハッ!」 と高らかに笑い出した。 だけど、その声の主は王我…ではない。 笑い声の主は僕の後ろにいた。 |
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