笑い声の主を確認するため、僕は後ろを向いた。 すると、そこには腹を抱えて笑いころげる長老がいた。 あっけにとられているのは僕達だけではない。 王我もポカンと笑い声の主を見つめていた。 ひとしきり笑いころげた後、長老は笑いすぎで出てきた涙を拭いつつ、王我のいる方向に向き直った。 「あー、腹いてー。 そんな事考えていた訳か。本当にわりー奴だな。 だけどよ、そりゃ倒す方も根気がいるけど倒される方も嫌なんじゃねえか。 お前、何回力達に倒されるつもりだったんだ?」 おそらく何回も僕達に打ち倒される王我を想像し、含み笑いをしている長老。 その姿には直前までの小動物のように愛らしい様子が全く無い。 言葉使いにも雲泥の差がある。 長老は困惑する僕の横に立ち、王我を見つめ、そしてニッコリと笑った。 「だけど、残念だなー。 何度復活しようとも、お前は2度と緊急プログラムには触れない。 しかも、現実世界にも戻れない」 王我が驚いて目を見開く。 「ど、どういう事だ?」 「力達がお前と戦っている隙にちょっとデータをいじらせてもらったよ。 お前を正式に“GAME―パラレル―”の魔王として任命した。 つまり、お前は完全なゲームキャラクターとなった訳だ」 「!」 今度は長老の言っている意味が僕達には全くわからなかった。 完全なゲームキャラクターとなった事が、緊急プログラムに触れられない事とどのように関連するのだろうか? だけど、王我には十分すぎる程その意味が理解しているようだった。 「わかっているようだな。 察しの通り。ゲームキャラクターにとっては“GAME―パラレル―”が自分の存在する世界だ。 現実世界に戻るという概念自体無い。 加えて、ゲームキャラクターには緊急用プログラムに触れる権利も無い」 「だ、だがお前は緊急用プログラムを使用していたじゃないか!」 すかさず王我が反論する。 そうだ、確かにそうだ。 長老が緊急用プログラムを自在に操る姿を僕達は見ている。 だけど、長老だってゲームキャラクターだ。 王我の問いに、長老は邪気を含めた笑みを浮かべる。 長老の周辺を飛び回っているブンは、邪気は無いが苦笑いを浮かべていた。 「そういえば、また自己紹介が遅れてしまったな。 ゴホン! 俺…いやワタクシは妖精の村の長老“ヨウ”と申します。 ただワタクシめの仕事はそちらが主ではありません。 ワタクシの主となる仕事はこの“GAME―パラレル―”の統括。 つまり、ワタクシはこの世界の統括者なのです」 |
「統括者!」 僕達4人が声をそろえて叫んだ。 「もしかして、1番最初に私達の登録手続きをしてくれたのは?」 「俺だよ。 姿を見られたら侮られるかもしれないから闇の中で登録させてもらった。 ついでに声質も大人に変えていたけどな。 うむ、そういえば『うわー帰せ!僕を元の世界に帰せー!(ジタバタ)』と叫ぶ見苦しい奴もいたな」 しみじみとした顔で遠方を見つめながら語る長老。 何故ここで僕の事を話すか。 「じゃ、じゃあ妖精の村にいたのは?」 「それもモチロン俺。 統括者である事はばれたくなかったもんで、精一杯姿相応のぶりっ子をしていたけどな」 そう言って、えへっと照れ笑いをする長老。 正体が判明した今では、逆に気味が悪い。 「現実世界に戻る前にオレ達に忠告をした奴と、この世界に戻ってくるようにオレ達に頼んだ奴は?」 「両方とも俺だ。 現実世界の状況を漏れ聞いていたからな、驚かないように忠告だけしておいたんだ」 そう語る長老の振る舞いに子供っぽさは全く残されていなかった。 この姿を見ると、妖精の村の長老だという事実、この世界の統括者だという事実に現実味が増してきた。 |
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