僕達は目の前の長老が“GAME―パラレル―”の統括者だという事実に驚いた。
だけど、王我は僕たちとは異なる点で驚いているようで、消えゆく身体をガタガタと震わせていた。
「ヨウ?
お前の名前はヨウなのか?」
王我のその問いを聞くと、長老は僕達に向けていた笑顔をスッと消し、真剣な表情になった。
僕は王我の問い自体の意味がわからなかった。
理解するために、自分の中でその問いを噛み砕いてみた。
そうして、改めて先程の王我の言葉を頭の中で繰り返し、ドキンとした。
…ヨウ?
長老は憎しみからなのか、それとも親しみからなのかよくわからない、妙に親しげな声色で王我に話しかけた。
「ひさしぶりだな、王我。
魔王の姿で面を突き合わせても、
現実世界でどれ程の時間が経過しているのかは想像もつかない」
そう言って、長老は王我の側にチョコンと座った。

「やはり!お前は……」
「気づくのが遅いんじゃないか?仮にも親友だったってのにな」
ハハッと長老は笑った。
「お、お前は殺した、殺したはずだ!
“GAME―パラレル―”に転送させた後、データを抹消した!」
それは先程僕達に使おうとした殺し方だ。
“GAME―パラレル―”では、消去するだけでデータ化した人間の存在すらも消す事ができる。
王我は既に1度その方法を実行していたのか。
「ああ、あの時は驚いたな。
突然銃を突きつけられたから、それで撃たれるのかと思ったよ。
しかし、お前は『“GAME―パラレル―”をプレイしろ』と言いだした。
最初は本当に意味がわからなかった。
だが、仮想世界に飛ぶ直前にお前の嫌な笑いを見て、
何をするつもりなのか予想がついた」
この話は、僕達が王我を追ってココに来た時に聞いた声の続きだ。
僕が知りたかった続きだ。
この話が正しいのならば長老は、長老は…。
「だからココに到着した直後、俺は密かに作っていた緊急用プログラムを呼び出した。
お前が俺のデータを消去するまでの間にできたのは、
妖精の村の長老に俺のデータをコピーすることと、
長老をこの世界の統括者として任命する事だけだったな」
だから、長老は王我の事を知っていた。
妖精の村の長老となる前に現実世界の人間として生きた、その記憶を持っていた。
「その後、お前がこのゲームを自分自身で利用しようとしたのには驚いたよ。
最初からそのつもりだったのか?」
「…」
その問いに王我は答えない。
僕達もこの2人の会話に言葉を挟めなかった。
「お前がこのゲームの特典を悪用して、とんでもない事をやらかす気がした。
だから統括者の権限で、お前はゲームクリアができない魔王にさせていただいたよ」
「……そういう事だったのか…」
「すると今度はいかつい男共がやって来た。お前の差し金だと思ったよ。
だから今度は“自分が最も適した職業にしか就けない≠ニいう制限をつけた」
また納得する。
以前王我は僕に言った。
『しかし、“GAME―パラレル―”の力を武力として使用するための条件があった。
ワタシが絶対的信頼を置く事ができ、
そしてワタシが期待する『魔法使い』となれる能力を備えている者だ』
と。
おそらく王我は、僕を利用しようとする前に、自分の部下を“GAME―パラレル―”に送っていたのだ。
だけど、軍務省の長である王我の部下は体力的に優る人物が多かったのだろう。
それでは王我の望む『魔法使い』になる事はできない。
もちろん知力に優る者もいたと思う。
だけど、王我はその人物を頭が良いが故に絶対的信頼を置けなかった。
だから、白羽の矢が僕に立ったのだ。
「つまり、ワタシの計画は最初の最初から失敗していたという訳か」
ハァと王我は深くため息をつく。
肩までが消滅し、生首のような状態になっていた。
「まあ、そういうことだな。ご愁傷様」
「本当にお前達親子には痛い目にあわされたよ」
『お前達親子』。
王我のこの言葉に僕の胸の心臓が更にやかましく鳴り出した。
「痛い目にあうのはまだこれからだ。
これからお前は、この世界の魔王として永遠に倒され続ける」
「フン…こんな…ことで……」
と何かを言おうとした途中で、王我は跡形もなく消滅した。
だけど、それも今ひと時。
時間が経てば王我はまたココに現れる。
“GAME―パラレル―”という世界がある限りは永遠に。
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