このゲームのプロローグから、プレイヤーの使命、操作手順などをブンは説明した。

 今から帰るつもりの人にこんな話をしても無駄だと思うけれど、本人はとても楽しそうだ。

「それでは最後にこのゲームを終了して元の世界に戻る方法を教えるね」

 その言葉を聞いて、僕はズズイとブンに近づいた。

「その方法は?」
「うわっ、いきなり身をのりだしたね。その方法は2つあるよ」
「2つ?」
「うん、2つ。1つ目は僕に今までのゲームプレイの記録を頼めばいいんだ。
 そうすれば記録完了後にゲームを終了させるかどうかを僕が訊ねるよ。
 そこで終了してほしいって返事すれば元の世界に帰る事ができるんだ」
「ふ〜ん、なるほど」

「2つ目は君がゲームオーバーになった場合、その時は強制的に元の世界に戻る」
「げぇむおーばぁ・・・って何?」

 この質問にブンは心底あきれたらしい。

「それも知らないんだ。本当に初心者なんだね」
「・・・」
「ゲームオーバーっていうのはゲームがそのまま続けられない状態になるって事だよ。
 このゲームじゃ、敵にやられて死んだ時がゲームオーバーって事になるんだ」
「死ぬ?」

 これはびっくりだ。
 ゲームに死ぬなんて言葉がでてくるとは思わなかった。
 という事は世間一般の子供は命をかけてまでゲームを遊んでいたのか。
 まさに死亡遊戯だ。

「何か勘違いしてない?本当に死ぬわけじゃないからね」

 すぐにブンに釘をさされた。
 そりゃそうか。

「ここでいう死っていうのはキャラクターの死であって本人の死じゃないよ。
 ほら君にもあるでしょ。HP(ヒットポイント)っていうのが」
「ひっとぽいんと?」
「ああ、いちいち面倒くさいな。
 HPっていうのはそのキャラクターの体力を数値に換算したもの。
 ほら、左腕に時計みたいなのがあるだろ。そこにある数値の事だよ。
 それが0になったときにキャラクターが死亡した状態になるんだよ」

 左手まで覆い被すような大きなダランとした服をめくると、確かにそこには時計に似たものがあった。
 その時計に似たものの表面に“HP12”、“MP19”という表示がされていた。

ニセ時計

「え、えむぴー?」
「もうそこは無視していいから」

 とうとうブンは説明が嫌になったらしい。
 ナビゲーターなのに。

「つまり君はHP12だから12ポイントダメージ受けたらゲームオーバーになるって事。
 わかった?」
「まあ、何となくは」
「頼りないな〜」

「でも帰り方はわかったよ。君に記録を頼んでゲーム終了を選択すればいいんだよね?」
「その通り」
「それじゃ、記録頼んでいい?」

 帰る方法を知った途端に帰ろうとするのは、薄情な気がした。

 だけど、僕は現実の世界に戻ってすぐに勉強を再開したいのだ。
 本当に申し訳ないのだけど。

「う〜ん、そうだね。説明も一通り終わったからいいよ。じゃ、記録するよ」

前へ  次へ

戻る