「さて、と。今の戦闘で君に仲間が必要な理由わかった?」

 ブンは拍手を終えると僕に質問をしてきた。

 僕に仲間が必要な理由?

 僕には魔法という能力が備わっているようなので、1人で戦うのに不足はないように思える。
 さっきは本を取り落とすという大失態をやらかしたけれど、そんな事はもう2度としないつもりだ。

 そうなると僕に仲間が必要な理由は・・・何なのだろう?
 全くわからない。

「いや全然」
と答えるとブンがあきれた顔をした。

 本当にわからないんだから仕方ないじゃないか。

「君の有効な攻撃方法は魔法。でも魔法には使える回数に限りがある。
 だから魔法を全て使い果たしたら君は敵に倒されるんだよ」
「でも、僕にはこの杖で攻撃するという方法もあるんじゃないの?」

 僕は手にしている杖をぶんぶんと振ってみた。

「無理だよ。君、名前負けしてて非力だから」
「・・・名前の事は放っておいてくれないかな」

 ブンの説明ではこの世界にいる他の3人もゲームを開始したばかりだそうだ。
 だから僕達が向かう予定の村に彼らも今日は滞在するに違いないという。

「それに彼らも君と同じ困った状況に陥っているはずだから快く協力してくれるよ」

 そんなに上手くいくのだろうか?



 しばらく歩くと柵にかこまれた家々が見えてきた。

「さあ着いた。ここはビギナー村って言うんだよ」

 ブンが僕の周りを飛びながら得意げに村の名を教えてくれた。

 村内部に入ると、たくさんの人が忙しそうに道を行き来している。

「人が大勢いるね」

 3人どころかその何十倍もの人達が僕の目に映る。

 これならこの世界に閉じ込められたままになっても十分生活はできそうだ。
 別にしたくないけど。

「・・・よく見てみたら」

 ブンがハァとため息をついた。

 何故ため息なんかつかれなきゃいけないのだろうと思いながらも僕は村の人をよく見てみた。

 すると、村の人達は延々と同じ場所を往復したり意味なくグルグルと円を描くように歩いていた。
 忙しそうに見えたのはこのせいか。
 彼らの行動の意図がわからない。

「ブン、この意味不明な行動は一体何?」
「この人達はゲームキャラクター。つまり本当の人間じゃないんだ」

 これは驚きだ。
 まばたきもしているし、息もしている本当の人間に見える。
 だけどこの人達は人間ではないのか。

 でもこんな本物そっくりの人間、何のために作ったのだろう?

「この人達の必要性を訊かれる前に言っておくよ。
 この人達はゲームを進めるための情報を話す役目があるんだ。
 だから君はこの人達から情報収集しなくちゃ先に進めないからね」

 質問をするより先に答えを言われてしまった。

 あまりにもゲーム初心者丸出しなので、僕の思考が読めるようになってきたのだろう。

「とりあえず誰かに声かけてみなよ」

 僕は女の人の前に押し出されてしまった。
 とても綺麗な人だ。
 でもこの人はゲームキャラクターというものであり、現実の人間ではない。
 わかっている、わかってはいるのだけど・・・緊張する。

 ふと後ろをみるとブンが小声でファイトとささやいていた。
 何だこの光景は。
 はたから見ると僕が告白するシーンのようだろう。

「あ、ああ、あのすみません」

 僕は思い切って声をかけた。

 しかし彼女は僕を無視してスタスタと歩き去り、少し行った先で折り返し戻ってきた。
 そして再び僕を無視して歩き去った。

シカトはつらいよ

 心境はフラレ男だ。

 傷心の僕は少し涙目でブンに抗議した。

「返事がないんだけど・・・」
「あれ、どうしてかな?」

 ブンは首をかしげた。

 彼(?)は部分部分で役にたたない所がある。
 これでナビゲーションがよく務まるなとぼやきたくなった。

「あ、そうか」
「何か思い出した?」
「今はまだゲーム調整中だから声かけただけじゃ反応しないんだったよ」
「それじゃあどうすれば?」

 その僕の問いに珍妙な答えが返ってきた。

「肩をぶつけるんだ」
「へ?」
「だから、肩をぶつければその刺激で反応するんだよ」
「・・・」

 何なんだ、その声のかけかたは。
 という事はこの世界にいる限り、人と会話をするためには肩をぶつけなければいけないという事か。

 現実の世界に戻ってもそのクセがとれなかったらどうしてくれるんだ。

 とりあえずその不満はおいておき、僕は先程のお姉さんに肩をぶつけてみた。
 すると僕の方を向き、お姉さんはニッコリと笑って言った。

「いらっしゃい、ビギナー村へ」

 そんな情報心底どうでもいい。

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