彼女の名前は砂原神楽(さはら かぐら)。
 僕と同じ14歳。

 僕と同じく親にゲームプレイを強要されたらしい。

「ものすごい勢いでゲームやれーってさ、この世界に放り込まれたんだ」

 何の因果かわからないけれど、彼女と僕がココに至る経緯は酷似している。

 しかし、僕が現在気になるのはその事ではなく・・・。

「それでこの服の山は一体何なんですか?」
「だってこの服気にくわないからさ」

 ビーッと砂原さんは自分の服を引っ張った。

 彼女の服は僕と同じくゲーム開始時に強制的に着せられた服だろうか。
 新しい自分の服見つけるために彼女はゲームキャラクターの服を剥いでいたらしい。

 服を換えたいのなら別に何か良い方法があるのではないかと僕は思う。
 それなのにこんな直接的な方法をとった砂原さんに僕は心の中で密かに拍手を送った。

「それで、わたしに何の用?」

 彼女のその質問に答えようとした時、ブンが僕の肩をこづいてきた。

 何だ、僕は肩をこづいても会話を始めたりはしないぞ。

「何?」
「残り2人が各々別方向からだけど、こちらに向かってきているよ」
「え、残り2人って・・・現実世界から来た2人の事?」
「そうだよ」

 ブンはウンウンと頷いた。

「でも、どうしてこっちに・・・」
「そりゃ来るでしょ」
とブンはチラッと後ろを見た。

 相変わらず下着姿の女の人たちが道を闊歩している。

 まあ、来るだろうな。



 その後、各々違う道から残りの2人がこの状況(下着姿女性集団)は何なんだ?と言いながら僕達の所にやってきた。

 一人は僕より少し年上に見える男の人だ。
 灰色の髪を後ろでひとつにまとめ、目を覆うべきサングラスを額にのせている。
 建築関係の人が着るようなブカブカな服の上下、そしてその上から黒革のような光沢のあるノースリーブの上着を羽織っている。

 もう一人は派手な感じの女の人だった。
 金色の髪に桃色の瞳。
 服装は・・・これはボディコンというものだろうか?
 黄色の上着、とても短い黄色のスカート、そして黄色のストッキング。
 露出度では先程の砂原さんには負けるが、こっちの方が何だか・・・Hだ。

蜂がうるさいなぁ

「オレの名前は若宮鷹貴(わかみや たかき)。16歳だ。
 親父に金儲けの秘訣がこのゲームの中にあるって言われて始めた。
 だけど、どうやら親父に騙されたみたいだな」

 灰色の髪の男の人が簡単に自己紹介をしてくれた。

 僕もこのゲームの中で金儲けの秘訣があるとは思えない。
 そう考えると、やはり若宮さんは父親に騙されたのだろうか。

 僕の思考をさえぎって、もう1人の女性も簡単な自己紹介を始めた。

「私は由宇香、桧枝由宇香(ひえ ゆうか)15歳です。
 パパがこのゲームをやれば何でも買ってくれると約束してくれました。
 だから始めました」
「パッ、パパ?」

 若宮さんがギョッとした。
 何故だろう?

 それを見て桧枝さんはクスリと妖艶に笑った。

「あら、勘違いしないでくださいね。パパは実のパパですから」
「あ、ああ。そりゃそうだよな」
「???」

 僕と砂原さんは結局2人の会話の意味がわからなかった。

 とりあえず僕と砂原さんも簡単な自己紹介をした。

 自己紹介が一通り終わると、その場をとりしきるように若宮さんはこう言った。

「あんた達も蜂もどきから大体の話は聞いたよな。
 どうやら俺達はココから出る事が難しい状況に陥ってしまったらしい」

 蜂もどきというのはブンの事のようだ。
 周囲を見回すと全員に1匹ずつとりついている。
 今は僕達の周囲を4匹の蜂もどき(若宮さん命名)がブンブンと飛び回っている。

 耳を澄ますと彼らが言葉を交わしているのがわかった。

「みんなお疲れさま。僕の客さ、ゲーム初心者で疲れたよ。そっちの客はどう?」
「僕の客も初心者だよ。
 体力ありそうな名前なんだけど、これがまた見事に名前負けしてるんだよ」

 本当に僕の名前の事は放っておいてほしい。

 おそらく今話しているのが僕を担当していたブンだな。

 あ、マズイ。
 そういえば僕が耳を傾けるべきなのは、ブン達の会話ではなかった。

 僕は改めて若宮さん達の話に耳を傾けた。

「普通の方法では現実世界に戻れないとはブンから聞いたよ。
 でもいつかは戻れるんでしょ」

 気だるそうに砂原さんは答えた。

 砂原さんはあまりこの事を重大だと考えてはいないみたいだ。
 今すぐに現実の世界に戻りたいという意思がないように見える。

 ちなみに先程砂原さんが大勢の人から剥いだ服はどれもお気にめさなかったらしく、元々着ていた服を今も継続して着用中だ。
 その辺りを歩いている下着姿の女の人達が哀れだ。

「そうですよね。このゲームをクリアすれば帰る事はできると聞きました」

 桧枝さんがそう言いながら髪をかきあげる。
 それだけで無駄なフェロモンが周囲に飛び散っている気がする。

 若宮さんは彼女達の言葉を聞き、ウンウンと頷きながら話を続けた。

「そう、その通り。ゲームクリアをすれば現実世界には帰れる。
 しかし、その方法には『1回もゲームオーバーにならない』という条件がついているんだ。
 1人ではその条件をクリアして現実世界に戻る事は難しい。
 そして今この世界にはココにいる4人しかプレイヤーがいない。
 ・・・という事はだ」

「この4人が力を合わせてゲームクリアするしかないって事ですか?」

 僕がこう言葉を返すと、若宮さんの眼がキラキラと輝いた。

「そう、当たりだ。
 オレはこんな作り物の世界にいつまでも滞在する気はない。
 それはあんた達も同じだろう?」
と若宮さんは僕達のほうに向き直った。

「まあ、そうですね」
とあいまいな返事の僕。

 心の中ではとても同意をしていたけれど、それを言葉として僕は表現し損なった。

「わたしはもう少しココにいても別にかまわないよ」
とやんわり否定の砂原さん。

「ええ、はやく帰ってパパにおねだりをしたいですね」
と目的が多少ずれている桧枝さん。

「・・・これは結束するのが難しそうだね」
とブン達は一斉にため息をついたのだった。

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