4.冒険は訓練も兼ねて


 「4人で協力してゲームクリアを目指す」という話はどうにかまとまった。

 はっきり言ってしまうと、各々の人に対する若宮さんの説得がなければ話はまとまらなかったかもしれない。

 ブン達4匹は僕達がチーム(本来はパーティーと呼ぶらしい)を組むと決定した途端、合体して1匹のブンになった。
 彼等曰く、「こういう仕様」だそうだ。
 まあ、確かに同じ内容を4匹から説明されたらうっとうしい。

 合体したブンはビギナー村近くの洞窟で、基本的な戦闘方法を学ぶ事を勧めた。

 そう言われれば、僕はまだ戦闘方法をよく知らない。
 それは他の3人も同じだと思う。

 前回の戦いで僕はどうにか勝てたけれど、正しい戦闘方法を知っていればもっと簡単に勝てたかもしれない。

 特に反対する理由もないので、僕達はブンの提案に従う事にした。

 しかし只今、僕達のいる場所は現実の世界と同じように日が暮れている。
 今からその洞窟に出発すると、到着が夜になってしまう。
 しかも夜は出現する敵が強くなるらしいので、今日その洞窟に向かうのは断念した。

 僕達はビギナー村のどこかにある旅館(本来は宿屋と呼ぶらしい)で一泊し、明日その洞窟に向かう事にする。

 小時間の村内捜索の後、発見した旅館に今日は一泊だ。

 お金があれば1人1部屋でも良かったのだけれど、ゲーム開始直後の僕達にそんな余分なお金があるわけがない。
 当然、僕と若宮さんで一部屋。
 砂原さんと桧枝さんで一部屋だ。

 ブンは僕達の部屋に泊まりたいと言ってきた。
 その提案に僕と若宮さんはキョトンとして顔を見合わせた。
 ブンが何故自ら進んで男の巣窟に入りたがったのかが全くわからない。
 たぶんむさ苦しいぞ。

 その謎を抱えたまま僕と若宮さんは女性陣2人と分かれ、部屋に入った。

 部屋の中にはボロボロのベッドが2つ。
 それ以外には何もない。
 本当にただ「寝る」ためだけの部屋だ。

 各々ベッドにゴロンと転がったところでブンが僕達に声をかけてきた。

「ちょっと2人とも、話聞いてくれるかな?」



 昼よりも弱い日差しを浴びながら僕は目が覚めた。

 寝ぼけているならば、そのまま学校に向かってしまいそうな程に朝の雰囲気も現実世界と違いがない。

 現実世界で今日は月曜日だ。
 でも当然僕は学校に行けない。
 誰かが僕の欠席を連絡してくれていると良いのだけど。

 そういえば、とうさんは僕が現実世界に戻れない現状を把握してくれているのだろうか?

 外は鳥がチチチと囀る、さわやかな朝だった。

 しかし僕と隣のベッドで転がっている若宮さんの心の中はまっ暗だ。

どんより

 僕も若宮さんも昨日の夜に聞いたブンの話が堪えている。

「やあ、おはよう・・・」
「おはようございます・・・」

 僕達の会話にも覇気がなかった。

「ん、どうした?あまり眠れなかった?」

 下階に下りると、先に朝食を食べていた砂原さんが不思議そうに訊ねてきた。

 イヤイヤナンデモナイヨと僕と若宮さんは頭と手をブンブンと振った。

 昨日ブンから聞いた話は絶望的な内容だった。
 その話が本当なのかどうかは今日わかるだろう。

 黙々と朝食を食べていると、空気を変えたくなったのか若宮さんが、
「オレ達これから命を共にする仲間だよな。
 苗字や丁寧語で話すのは水臭いからやめよう!」
と発言した。

 その提案に対して砂原さんと桧枝さんは、
「命を共にする仲間って・・・クサッ!」
「本人の前でクサいなんて言っては失礼じゃないですか?」
と答えた。

 そうは言っても、結局2人とも若宮さんの提案は受けるようだ。

 それならば僕も若宮さんを鷹貴、砂原さんを神楽と呼ぼう。
 桧枝さんは・・・由宇香さんと呼ぼう。

 大人っぽい雰囲気の由宇香さんは呼び捨てにしにくい。

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