「あ、力。今回の戦闘、君は何もしちゃ駄目だよ」
「わかってるよ」

 ブンと僕のそのやりとりを聞いて、由宇香さんが不思議そうに訊ねた。

「何もしないってどうしてかしら?」

「オレ達の抱えている問題の確認のためだよ」

 鷹貴が苦笑いをしながら由宇香さんの肩をポンと叩いた。

 そんな感じでダラダラと長話をしている間に溶けかけ目玉ボールはしびれをきらしたらしい。
 プッと何かを口から吐き出し、神楽の足にひっかける攻撃をしてきた。

「熱っ!」
と神楽が叫んだ。

 そうか、熱いのか。
 僕も注意しよう。

 かけられた液体をハンカチか何かでぬぐった後、神楽は溶けボール(略)をキッと睨んだ。

 どう考えても怒っている。
 怖い。

 怒りの表情のまま、神楽は上着の内ポケットからナイフをとりだした。

 これが神楽の使用する武器か。

 僕は杖、神楽はナイフ。
 僕と神楽が戦えば絶対に僕が負けるな。

「・・・」

 無言のまま神楽は溶けボール(略)に突撃した。

 そしてそのまま溶けボール(略)に切りかかる。

 ナイフは溶けボール(略)にくいこんだ。
 でも溶けボール(略)の身は切れていないようだ。
 溶けボール(略)にナイフが飲み込まれているようにみえる。

 うむ、どう説明したらいいのだろうか。

 水にナイフをつっこんだ状態に似ているかな。

 今の攻撃で溶けボール(略)が傷ついたようにはみえなかった。

 神楽が溶けボール(略)からナイフをひきぬくと、ネトーと糸をひいた。

 げっ、気味悪っ!

 仮にあのナイフが包丁だったとしても、今後あれで食料をきるのは断固としてお断りだ。

 気味が悪いのは神楽も同じだったらしく、嫌な顔をしながら先程自分の足をふいた布でナイフをふいている。
 これであの布は溶けボール(略)から放出されたものがたっぷりと染み込んだ布となった。

 ナイフをぬぐっていた神楽はふいにその作業を止め、自分の左手をジッと見つめた。
 どうしたのだろう?

 ブンが神楽の元に飛んでいき、ニコッと笑った。

「さすがだね。アイテムも盗んできたんだ」

 そう、神楽はこの“GAME―パラレル―”内で『盗賊』という職に任命されている。

盗賊・神楽っち

 このゲームの中で盗賊の最も目立つ特徴は敵に攻撃をした時、ついでに敵の所持品を無意識のうちに(ある意味とても怖い)盗んでくる事だ。

 それ以外では素早い。
 仕掛けられた罠に気がつく。
 近くに潜む敵に気がつく等の能力がある。

 しかし、力は並以下と戦闘ではあまり役にたたない。

 ブンの話によると僕達のように4人で組む場合、普通は戦闘に役立つ職3人と戦闘には役立たないが加えていると面白いという遊び心の職1人で構成される事が多いという。

 盗賊というのはその遊び心の職らしい。

「ところで一体何を盗んできたの?」
と僕が訪ねると、後の2人も盗んだ物(人聞きがわるい)を見ようと近寄ってきた。

 神楽の左手にはどろどろの液体が入った小瓶。

「それはね、溶解目玉(溶けボール(略)の事らしい)の体液だよ」
とブンが説明してくれた。

「・・・」

 この時、僕達4人の意見は心の中で寸分の違いなく一致した事だろう。

 こんなもん、いらん。

 溶解目玉は何故自分の体液を小瓶につめて大切に持っていたのだろうか?

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