「ほらほらはやく次の人が攻撃しなくちゃ。溶解目玉が待ってるよ」
と、ブンが僕達をせかした。
ブンが言った通り、溶解目玉は攻撃をする事もなくジッと待っている。
ここにいる4人が何らかの行動をとらない限り、溶解目玉は逃げる事も攻撃する事もできない。
このゲームはそういう仕様なのだとブンから聞いた。
とても緊迫感のない戦いだ。
「それじゃあ、次はオレがいくかな」
鷹貴が立候補し、ゆっくりと溶解目玉に近づいた。
近づきながら鷹貴は上着の中に手をつっこみ、大きな何かを取り出す。
鷹貴が手にしているのは小銭が大量に入った金袋。
それが鷹貴の武器だ。
それにしても、上着内部のどこにあの大きな金袋が入っているのかが実に疑問だ。
しかし、魔法の本と杖を懐に収納できている僕の服も実におかしい。
人の事は言えないな。
僕は武器をずっと小脇に抱えている時に、ブンのアドバイスでこの服の収容能力を知った。
だけどどんな原理で武器が収納できるのかを僕は知らない。
ブンに問うと、「4次元だよ」とだけ答えた。
意味がよくわからない。
そんな事を考えているうちに鷹貴は溶解目玉に接近していた。
鷹貴が金袋を溶解目玉に振り下ろす。
はたから見るとお金を抱えた人が突進し、攻撃しているという妙な光景だ。
金袋の衝撃で溶解目玉の一部が飛び散った。
その飛び散った一部が鷹貴の手の甲につき、ジュッと焼ける。
「うあちっ!」
鷹貴は軽くピョンと飛び上がった。
これは、はたから見ていなくてもまぬけな光景だ。
手の甲をフーフーと吹きながら鷹貴が僕達の所に戻ってきた。
しばらくは「熱い熱い」と言いながら、手の甲を吹いていた。
しかし鷹貴もまた神楽と同じように自分の左手をジッと見つめたまま固まった。
今回もブンが鷹貴に近寄り、ニコッと笑った。
「鷹貴もお見事。お金を持ってきたんだね」
鷹貴はこの“GAME―パラレル―”内で『商人』という職に任命されている。