僕は今回の戦闘に手をだせない。
よって「防御」という攻撃をしない行動を選択した。
顔の前で腕をクロスさせる事で「防御」を選択したとゲームが判断する。
言われたとおりに顔の前で腕をクロスさせると、ピキーンという音が聞こえた。
それだけで僕の今回の行動は終了だ。
というわけで次は必然的に彼女の行動となる。
「私の出番かしら?」
と言って由宇香さんはニッコリと微笑んだ。
しかし、彼女はすぐに困惑した表情を見せた。
「・・・で、私はどのように攻撃をすればいいの?」
由宇香さんはボディコン風の服以外に何も持っていない。
彼女からすると自分に何ができるのかが全く謎なのだろう。
そんな彼女にブンがとても言いづらそうだけど、無情な宣告を下した。
「由宇香、君は何もできないんだ」
由宇香さんが“GAME―パラレル―”内で任命された職は『自由人』。

特徴ある攻撃能力は全くない。
それどころか逆に敵に攻撃ができないという何のメリットもない職だ。
この職もまた遊び心の職だとブンに聞いた。
自由人はこの遊び心の職の中でも最強だ。
ゲームが簡単すぎて面白くないという人がハンデとして使用する職なのだ。
その話を聞き、落ち込んでしまった由宇香さんをブンが必死にフォローしている。
僕達と溶解目玉はその光景をぼんやりと見つめた。
これでブンの言っていた「もうひとつの絶望的な話」が何となく理解できただろうか。
郡藤 力『魔法使い』、砂原 神楽『盗賊』、若宮 鷹貴『商人』、桧枝 由宇香『自由人』。
戦闘に役立つ職1人、遊び心の職3人。
明らかに遊び心の職が多すぎるのだ。
しかもかろうじて戦闘に役立つ僕も含めて全員非力だ。
そして更に最悪な事に、僕の職もMPというものが0になってしまうと役立たずになってしまう。
「はっきり言ってしまえばこんな組み合わせのパーティーありえないよ。
このパーティじゃ1回もゲームオーバーにならずにクリアするのはすごく難しいと思う」
僕は昨日のブンの言葉を思い出した。
そしてこの話を聞いた時、僕と鷹貴が顔面蒼白になった事も思い出した。
まだ他にもプレイヤーがいるのならば、僕達は決して行動を共にする事のない組み合わせなのだ。
しかし、今このゲームはテストプレイ中だ。
しかも、プレイヤーは4人しかいない。
だから、この4人以外に組みようがない。
ありえないと言われようが、難しいと言われようがどうしようもないのだ。
その後、どうにか洞窟奥の貴重な薬草採取はできた。
だけど、ほぼ僕の魔法で切り抜けた形だ。
僕のMPが0になった後に敵と遭遇した場合、ただひたすらにボコボコ殴り続けた。
全員力が弱いので1匹倒すのにかなり時間がかかった。
帰り道はぐったりしすぎて、誰も何の言葉も発しなかった。
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