5.急転直下は長老が


 僕達のすぐ目の前に集落が見える。

「あれが妖精の村だよ」

 ブンが集落を示して言った。

「・・・」

 しかし、誰も返事をしなかった。
 みんな疲れすぎて返事をする気力もないのだ。

 本当ならば、ビギナー村近くの洞窟からこの妖精の村に至る道のりの話が必要だと思う。

 でも、僕はこの事が断言できる。


 絶対につまらない。


 ビギナー村近くの洞窟を出た後、僕達はゲームオーバーにならないことを心がけてゲームを進めている。
 HPという僕達の命綱を減らさない為に、所持金全てを使ってHPが回復する薬を買い占めた。

 その薬を使いつつ、敵を倒してきた。

 僕の魔法が使えない状態(MPが0)になると、途端にみんなで袋叩き戦法に入るしかない。
 ただひたすらにボコボコボコボコと・・・。

 一日が終了すると、みんな疲れ果ててグッタリしている。

 ゲームってこんなものなんだろうか?
 何が楽しくて子供達はこんなもので遊ぶのだろうか?
 もともとゲームが好きなわけではないけれど、すごくゲーム嫌いになってしまいそうだ。

 ブンによると目の前にある妖精の村は次の目的地。
 ココで妖精の村の長老の頼みを聞く必要があるという。

 妖精の村に入った時点で4人ともギョッとした。

 村人の耳が変だ。

 全員耳が長い。
 耳たぶは・・・耳の下部だから違うか。
 上部だ、耳の上部が僕達の耳よりかなり長い。
 とにかく変な耳だ。

「あの耳が妖精という種族である証拠なんだよ」

 ココに至るまでに4人から「アレは何?」「コレは何?」とあらゆる物事で質問攻撃にあっていたブン。
 また質問攻めにあう前にブンが先手を打って答えた。

「耳があんなに長くて何か得あるの?ケンカの時につかまれやすくて不利じゃない?」
 物騒な事を言っているのは神楽だ。

「神楽ちゃん、世間では耳の伸びている人を好む人達がいるんだ。
 そういう人達にこんな長い耳の人グッズを売ればけっこう儲かるんだよ」
と、金の話をしているのは鷹貴。

「可愛らしい感じがするわね」
とニコニコ笑っているのは由宇香さんだ。

 何となくだけど、3人の性格はつかめてきた。

 神楽は口よりも手が先に出るタイプだ。

 少しでも先に敵から攻撃を受けると、いくら逃げようと提案しても彼女は断った。
 1人でも延々と敵に切りかかる。

 ある村で面と向かってゲームキャラクターに「弱っちい女だ」と言われた時は、そのキャラクターをボコボコにしていた。
 衝撃を受けると話を開始するゲームキャラクターに衝撃を与え続けているので、キャラクターも延々と「弱っちい女だ」を連呼していた。

 鷹貴は何よりも金が命だ。

 今まで僕達が取ってきた作戦はHPを減らさない為に大量の薬を買い込む作戦だったが、鷹貴が1番強固に反対した。
 おそらく無駄金は使いたくないという理由だろう。
 何故架空の金をそこまで出し渋るのだろうか?

 そういう人なので僕達は未だに『銭投げ』の技能を使用するのを見たことがない。

 由宇香さんはただひたすらにのんきだ。

 『自由人』という職のため、攻撃すらできない彼女。

 だから、実質的には僕達3人で敵と戦っている。
 その側で由宇香さんはその光景を見守り、僕達のHPが減少した時に薬を使ってHPの値を元に戻す事以外は何もできない。

 僕達がへとへとになって、敵を倒した時には大抵由宇香さんは寝ている。

 スウスウと寝ていられると悪いけれど少し腹が立つ。
 おそらく他の2人も同じ意見だと思う。

起きなさい

 この世界に来て1週間ちょっとになる。

 この調子だと元の世界に戻るのに、どれだけの時間を要するのだろうか?

 大体、僕達が元の世界に戻れなくなった原因は何なのだろうか?
 あの地震がこの世界の異変を知らせるものだったとしたら、あの時に一体何が起こったのだろうか?

 しかし、今は帰れなくなった原因を考えるよりも元の世界に戻る努力をする事が優先される。

 僕は一刻も早く現実世界に戻り、勉強をしなくてはいけない身なのだ。

 ヨシと気合を入れ、僕は仲間の3人に続いて村に入った。

前へ  次へ

戻る