「えーっ、このチビが長老?」
「見た目はチビですが、この妖精の村では一番長生きなんですよ」

 神楽の驚きの声に少しムッとしながら返答した後、長老は一旦言葉をきる。

 そして、ため息をつきながら続けてこう言った。

「というよりはゲーム上そのような設定になっていると言った方が正しいでしょうね」

 ・・・夢もロマンもない。

 長老がこんな感じでいいのだろうか?



 長老を発見した僕は彼を無理やり旅館に引っ張ってきた。

 そして、就寝直前だったみんなを呼びよせて彼が長老だと紹介すると全員驚いた。

 そりゃそうだろう。
 どう見ても外見は小学生だ。

「どうして村の外に出ていたの?
 妖精の村の長老はココを訪れる人に頼み事を言うのが役目でしょ?」

 長老をとがめる感じでブンが訊ねた。
 しかし、ブンの非難めいた視線を全く気にすることなく長老は答えた。

「それは平常時の役目じゃないですか。今は緊急事態です」

 逆に非難するような目をブンに向ける長老。

 気迫負けして、ブンはその視線にうろたえた。

「で、でもゲームクリアが元の世界に戻る最善の方法だよ。
 だから平常時と同じようにゲームを進行することになるのは仕方ないじゃないか。
 それよりも良い方法があるって言うの?」

 ブンがハエのように長老の周りを飛びながら訊ねる。

 NOとばかりに長老は首をふった。

「元の世界に戻る方法としてゲームクリアを選んだのは最適だと思います。
 今のこの状況でゲームオーバーで戻ろうとするのはとても危険です」

「それじゃあ君は一体何が言いたいわけ?」

 憤慨しながら自分の周りを飛び続けるブンをギュッとつかみ、長老は答えた。

「僕はこのままゲームのシナリオ通りに冒険をする必要なんかないと思っているんです」

「???」

 すでに僕達4人は話についていけなかった。

 そんな僕達を見て、長老はニッコリと微笑んだ。

「今から魔王を倒しにいけば、すぐにゲームクリアできますよ」



 その言葉を聞き、ブンが長老の手の中でモガモガと暴れだした。

「む、無理だよ。無理無理。無理に決まってるじゃないか!」
「そ、そうだ。無理・・・なんだよな?」

 鷹貴が誰ともなく訊ねた。

 以前に僕は「今すぐに魔王を倒す事は地理的にも実力的にも不可能だ」とブンから聞いている。
 長老の言っている事が実現できるのならば、ブンは嘘をついた事になる。

 奮闘の末、スポーンと長老の手の中から逃れたブンが鷹貴の問いに答えた。

「無理に決まってるじゃないか!
 ココから魔王の城までどんなに離れていると思ってるの。
 それに、今のレベルじゃ絶対魔王に4人とも瞬殺されてゲームオーバーだよ」

 ブンのその言葉に即長老の反応が返ってきた。

「魔王の城へのワープポイントはさっき開放してきました」

 事も無げに言う長老。

「な、何だって!ワープポイントは最終局面じゃないと開放しちゃいけないのに!」
「緊急時だから問題ないです」

 ブンの叱責に長老は即答する。
 全く悪びれる様子はない。

 ブンの狼狽ぶりからすると、「ワープポイントの開放」は本来ならばやってはいけない事のようだ。

 でも僕達が緊急事態にあるのは間違いないわけだし、少しぐらいなら禁断の方法も許される・・・と思う。

 その話からすると、「ワープポイントの開放」の為に長老は村の外に出ていたようだ。
 村の中を捜してもいなかったわけだ。

「そして、レベルが満たないという問題もコレを使えば解消されます」

 長老が小声で何かを呟いた。
 すると、ブゥンという音と共に彼の目の前にパソコンの画面みたいなものが出現した。

謎画面with長老

「な、何それ?」

 ブンが驚いている。

 どうやらブンも知らないモノらしい。

「コレですか?
 コレはこのゲームを開発していた人がこっそり作った緊急用プログラム―you―です」

「緊急用プログラム?」

 神楽が理解不能といった顔で言葉を発した。
 すると長老は神楽を見ながら、またニッコリと笑った。

「そう、緊急用プログラムです。
 本当にこっそり作っていたからブンも知らなかったみたいですね。
 コレを使えばゲームの世界にいても、ゲームの設定を変更することができます」

 長老が画面の前に手をかざす。
 すると今まで黒色だった画面に光が灯った。

「だからこういうこともできるんです」

 長老が画面の前で手を動かし始めた。
 その手の動きはとても軽やかでスピーディーだ。

 しばらくはその手の動きに見とれていた。

 しかし、突然僕の体に異変が生じた。

 体がピンと伸びる。
 足元から頭の方向に温かい何かが上ってくるような感じだ。
 それは他の3人も同じだったようで、僕と同じように体が伸びていた。

 その状態はしばらくの間続き、
「よし、これでいいでしょう」
と、長老が画面から手を下ろす事でやっと僕達の体も下にストンと落ちた。

 妙に体から力がわいてくる。

 自分の体を確かめるように僕達は腕や手をジッと見つめた。

 その様子を見ていたブンがいきなり大声を出した。

「ちょっ、ちょちょっとみんな!レ、レベル確認してみて!」

「え、レベル?」

 僕が確認するより先に神楽がブンと同じように大声を出した。

「HP780、MP450のレベル99?」

 その大声を聞いて僕も鷹貴も由宇香さんも自分の左腕の時計もどきを確認した。

 HPとMPの数値は人によってまちまちではあったけれど、以前よりも格段にアップしていた。

 そして全員のレベルは99になっていた。

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