「こっ、こんなルール違反・・・」
ブンはこんな事ができるのを全く知らなかったらしく、口をパクパクさせている。
「緊急時だから問題ないです」
ブンとは対照的にシレッとしている長老。
同じ自己学習機能を備えているゲームキャラクターでもここまで性格が変わるものなのか。
「これで魔王の城に行けるようになったのかしら?」
自分の姿をしげしげと見ながら由宇香さんが問う。
由宇香さんはまだ状況を把握しきっていないようだ(僕もそうだが)。
「そうです。後、必要なのは十分な装備とアイテム・・・でしょうか」
再び画面の前に手をかざす長老。
先程と同じ様に手を動かすと、今度はいきなり僕達の服に砂嵐が発生した。
服のみに砂嵐が発生しているという状況はとても気味が悪い。
しばらくの後、服に発生した砂嵐は治まった。
見たところ、服に変化はない。
触れてみると、わずかに以前よりも生地が丈夫であるように思える。
背後でブンの呟きが聞こえた。
「・・・最強装備だ」
うなだれるブンを尻目に由宇香さんは荷物入れの袋をのぞいた。
由宇香さんは僕達に薬を与える役目があるので、荷物入れの袋は常に彼女が持っている。
「あらあら、こんなにたくさん!」
荷物入れの袋をのぞきながら由宇香さんが感嘆の声をあげた。
僕が袋の中をみると、虹色の液体が入った小さな小瓶がたくさん入っていた。
「それは『虹の薬』というHPが全回復するアイテムです。99個入れておきました」
「にっ、虹の薬?とても貴重な薬じゃないか!そ、それをこんな簡単にしかも大量に・・・」
もはやブンは何を聞いてもうろたえるばかりだ。
長老は相変わらずシレッとしたままキッパリと言った。
「しつこいですよ。緊急時だから問題はありません!」
こうして禁断の方法を経て、最強状態となった僕達。
「一回外に出て強さを確かめてみようよ」
という神楽の提案で僕達4人+ブン+長老は村の外に出かけた。
ブンだけは今の状況についていけないらしく、フラフラと危なっかしげに飛びながら僕達の後をついてきている。
外に出ると丁度いいタイミングでとげとげのついた目玉ボール3匹と遭遇した。
前々から思っていたけれど、このゲームを作った人は目玉以外に敵を思いつかなかったのだろうか?
出てくる敵、出てくる敵が目玉ばかりだ。
(省略している冒険の間も敵はほぼ目玉だった)
外見に大いに不満はあるけれど、つい先程までならばこのとげ目玉(略)は強敵だった。
3人で何十回と袋叩きにしてやっと倒していたのだ。
3匹も同時に遭遇したとなれば、今までなら一目散に逃げ出していた。
しかし、今の僕達は先程の僕達とは違う。
攻撃された時にどうなるかを先に見ておこうという鷹貴の提案で、僕達はワザと敵に先攻を譲った。
しかし、攻撃が当たらない。
敵が攻撃ミスをするのだ。
仕方ないので僕達も攻撃をせず、ダメージを受けるまでひたすらに相手の攻撃を受けた。
そうやって受けたダメージがたったの1ポイントだった。
「ついさっきまでこいつらに攻撃受けたら、おおわらわだったのになぁ」
しみじみと泣く鷹貴。
何の涙なんだ?
嬉し涙?
鷹貴の涙はおいといて、これでだいたいどのくらいのダメージを受けるのかがわかった。
次は僕達が攻撃をしてみることにした。
神楽がナイフでとげ目玉(略)に切りかかると、とげ目玉(略)はまっぷたつになり消滅した。
しかし神楽の攻撃はそれだけでは収まらず、ミシミシミシという音と共に地面までもが広範囲にわたりまっぷたつというか・・・ひび割れた。
まるで大型地震が起きた後の地面のようだ。
その光景に目を丸くしながら、鷹貴がとげ目玉(略)を金袋で攻撃した。
とげ目玉は振り下ろされた金袋の衝撃で、跡形もなく砕け散り消滅した。
しかし、またもや攻撃の影響はそれだけでは収まらなかった。
ズズーンという衝撃音と共に地面に大きなクレーターができてしまった。
まるで隕石が落ちてきたみたいだ。
攻撃した当人達だけではなく僕も目の前の光景に呆然としてしまった。
「大丈夫ですか?次は力さんの番ですよ」
長老が目の前で手をヒラヒラとさせて、やっと僕は我に返った。
僕も神楽も鷹貴も現実世界ではありえないし、見たこともない異様な光景に見とれてしまっていた。
何の攻撃をしようかな、とスタート時にもらった魔法の本を僕は開いた。
そうだ、どうせ試すなら一番強い魔法を使ってみよう。
本をパラパラとめくり、僕は一番強力な魔法を探した。
一番強い魔法はっと・・・コレか。
僕は杖を残った一匹のとげ目玉(略)に向け、呪文を唱え始めた。
「“世界の終末まで封印されるべき忌まわしき力、強大な力よ。
今ひととき我に力を貸したまえ。
この世に存在する者、存在無き者までも燃やし尽くす業火よ。
アルティメット・ファイヤー!=v
僕が呪文を唱え終わると同時に杖の先からすさまじい炎がすさまじい勢いで噴き出した。
とげ目玉(略)は逃げる間もなく炎にのみこまれ、ジュッという音がわずかに聞こえた。
しかし炎はとげ目玉(略)を消滅させただけでは満足しなかったらしい。
はるか遠くにそびえたつ山にそのままの勢いで向かい、そして衝突した。
ドオォォンというすさまじい音とまぶしい光に僕は目を閉じた。
そして再び目を開くと・・・山が吹き飛んでいた。
言葉もなく立ち尽くす僕達4人。
目を大きく見開き、口もポカンと開いたままだ。
後ろで長老がボソッと呟いた。
「これは・・・強さの調整が必要かな」