すさまじい戦闘能力はさておき、最終的には明日魔王の城に向かいゲームクリアをすることに決定した。
今はみんなが旅館の自分の部屋で眠っている。
長老が大量のお金も緊急用プログラムで用意してくれたので、今日は初めての1人1部屋だ。
この部屋には僕以外誰もいない。
これでこの世界で休むのも最後だと思うと眠るのが少しだけ惜しくなる。
ちょっと前まではクタクタに疲れ果てて、グッスリ眠りたいと思っていたのに。
僕も現金だな。
この“GAME―パラレル―”の世界に来て、約一週間しか経っていない。
だけど、それなりにこの世界に愛着がわいていたんだと自分で自分の感情にしみじみとしてしまった。
しかし、その愛着の感情以上に元の世界に戻りたいという思いが僕の中では強い。
早く戻って、早く勉強をしなければ。
そして早くとうさんの役に立つんだ。
目を閉じる。
右、左と体の向きを変えてみる。
ゴロゴロと転がってみる。
眠れない。
「仕方ない、散歩でもしてくるか」
僕は独り言を呟き、ベッドから起き上がった。
他の部屋のみんなを起こさないように静かにドアを開け、廊下に出る。
廊下は窓から光が差し込み、照明なしでも大丈夫なようだ。
窓の外には丸い月。
静かな光・・・とでも言うのだろうか。
太陽のように暗闇を消し去るほど強いモノではなく、僕をほんのわずかに照らす光が空から地面にそそがれている。
ココが僕達の住んでいる世界とは違う事を忘れてしまいそうなほど、空は現実の世界とそっくりだ。
(地面を見ると、ひびわれていたり、クレーターができていたり、山が消し飛んでいたりして世界が違うことを実感するが)
できるだけ音をたてないようにしながら外に出て、僕は草むらに腰を下ろした。
何も考えず、ぼんやりと月を眺める。
「きれいな月ですね」
「うわっ!」
いつの間にか僕の右隣に長老がチョコンと座っている。
驚いた。
僕の驚きの様に何の反応もせず、長老は訊ねた。
「あなたの世界でも月はこんなに綺麗ですか?」
長老も先程の僕と同じようにぼんやりと月を眺めている。
僕も再び月を眺めながら答えた。
「そうだね。でも常にこんな丸ではないかな」
この世界の月は常に丸だ。
欠けたりはしない。
常に真円を描き、美しく輝いている。
「そうでした。あなた達の世界の月は満ち欠けするんでしたね」
長老がゴロンと草むらの中に寝転がった。
それに倣い、僕も草むらの中に寝転んでみた。