群藤王我は義理の父だ。

 僕の実の父、結城 遥(ゆうき よう)は僕が生まれる前に失踪した。
 どこにいるのか、生きているのかさえ今もわからない。

 突然夫に失踪されてしまった母さんは仕事をしながら必死に僕を育ててくれた。

 父母共に揃った家よりは貧しかったと思う。
 しかし、母子家庭の家としては並だったのではないだろうか。
 買う必要のある物がどう頑張っても買えないという事はなかった。

 だけどその最低限の生活も母さんの必死の働きの上にあり、その結果僕は1人ぼっちの事が多かった。

 僕が覚えている小さい頃の記憶の中に母さんはいない。
 保育園では母親に迎えられ、帰っていく友達を横目に1人で本を読んでいる記憶が残っている。
 小学校では母親の帰りを待ちながら、1人でご飯を食べる記憶ばかりだ。

 母さんは僕を溺愛してくれていたとは思う。

 だけど、僕を1人にしてしまう事はどうしようもなかった。

 1日1日がとても寂しかった。

ひとりぼっち

 そしてその日々から僕達を救ってくれたのがとうさん、群藤王我だった。

 母さんととうさんがどのようにして知り合ったのかはよく知らない。
 2人の間の話だから、僕が知る必要もないだろう。

 母さんが僕にとうさんを紹介してくれてからしばらく経った後、母さんととうさんは結婚した。

 とうさんは連れ子だった僕にも愛情をそそいでくれた。
 それは国の軍事を与る軍務大臣となった今でも変わらない。

 僕はとうさんを尊敬している。
 だから、以前は早く母さんの役に立つ為に行っていた勉強を今はとうさんの役に立ちたいが為に行っている。
 僕は一刻も早くとうさんの役にたちたいのだ。

「ふ〜ん、そういうわけですか」

 僕が自分の家の事を語り終えると、長老はフゥと深いため息をついた。

「そういう訳だよ。僕は早く色々な知識を身につけてとうさんの片腕になりたいんだ。
 そのためには生半可な勉強じゃ駄目なんだよ」

 軍務大臣になるような人の片腕、いや僕が力になれる時にはそれよりもまだ偉くなっているかもしれない。
 そのとうさんの片腕になるためにはどれだけの知識が必要だろうか?
 今の僕には全く想像がつかない。

 だから今はとうさんの望む学校に進学すること、とうさんの望むように動くことしかできない。
 本当は自分で考えてとうさんの喜ぶ行動をしなければいけないことはわかっている。
 だけど今の僕にはそれがとても難しいのだ。

 ただ、今は現実世界に戻ることが先決だ。
 それだけはわかる。

「僕は早く現実世界に戻りたかった。
 だから、早く現実世界に戻れるようにしてくれた長老にはとても感謝しているんだ。
 本当にありがとう」

 僕は長老の方を向いてニッコリと笑った。

 すると、
「僕は自分のやるべき事をやっただけです。
 あなた達は現実世界に戻るべきだと思った。だから、そうした。
 ただそれだけですよ」
と長老は何故か寂しげな笑顔を返した。

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