「だったら私も家の話をした方がいいかしら?」
「あ、オレも話そうか?」

 後ろにある茂みからニュニュッと鷹貴と由宇香さんが出てきた。

 いつから茂みにもぐっていたのだろう?

 というかこの2人も僕の話を聞いていたのだろうか?

「いや〜、君が帰りたがるのにそんな理由があったなんてな〜」

 聞いていたみたいだ。

「それに神楽も結構な家庭環境みたいね」
と言いながら、2人は神楽の横に座った。

「ハイハイそれじゃあ、オレの話いくぞ〜」

 鷹貴は生徒のように挙手した後、語りだした。

「オレの両親は大企業のお偉いさんだ。ワカミヤグループって知ってるか?
 そのグループの社長が親父で、会長がお袋なんだ」

 ワカミヤグループか、聞いた事がある。
 化粧品や食品等の色々な方面でその名がついた商品をよく見る。
 結構というか相当大きな会社だ。

 鷹貴はその企業の御曹司なのか。

 僕がそんな事を考えている間も鷹貴の家の話は続いていた。

「それで、オレも神楽ちゃんの家みたいにほったらかしの状態だった。
 今もそれは変わらない。
 でも神楽ちゃんとは違って、オレにはおばちゃんの家政婦さんが常に家にいた。
 どっちかというとオレにとってはそのおばちゃんの方がお袋みたいだな。
 ・・・っておい、65歳のお袋か?相当年くったお袋だな。」

 自分で自分の言葉にツッコミを入れながら、ワハハと笑う鷹貴。
 空笑いというわけではなさそうだ。
 心底笑っている。

「・・・寂しくなかった?」

 神楽が鷹貴をのぞきながら訊ねた。
 僕の位置から神楽の顔は見えないけれど、さっきみたいな寂しげな表情をしているのだろうか?

 神楽のその質問を聞いて鷹貴はニヤッと笑った。

「神楽ちゃんは寂しいわけ?」

 その言葉にとても神楽は動揺したようだ。
 こちら側から顔は見えないけれど、耳が真っ赤だ。

「べ、べべ別に寂しくなんか・・・」

 神楽のしどろもどろの弁解を聞く事なく、鷹貴は先程の質問に答えた。

「オレも最初は寂しかったさ。だけどオレは途中で良い趣味見つけたからな〜」
「趣味、一体何の?」

 今度は僕が鷹貴に訊ねた。

 またしても鷹貴はニヤニヤと人の悪そうな笑いを浮かべた。
 動揺したままの神楽を跨いで、僕にこっそりと耳打ちをした。

 今度は僕が真っ赤になった。

発火

 こ、ここの人は耳元で何て事を・・・。

 僕は今の赤面した顔を見られたくなくて、顔を隠すように屈みこんだ。

「何?何て言ったの?」
と訊きながら神楽は僕をガクガクと揺らした。

 な、何を言われたかって?
 い、いいい言えない、言えるわけない。
 あんな内容・・・。

「というのは冗談で、今までのオレの行動で大体予想つくんじゃないかな。
 金儲けだよ。金儲け」

 なんだ、冗談か。
 そりゃそうか、そうだよな。
 うん、そりゃそうだ。
 あんなのが趣味なわけない。

「株はモチロン、色々やったな〜。違法すれすれな事も色々」

 違法すれすれな事って一体・・・。

「そんな事やっていると思うワケよ。
 この金儲けがたまらなく楽しいっていう感じ、絶対に両親からの遺伝だよなってさ」
「両親からの遺伝?」
「そう、遺伝。両親はオレの側にいないが、両親から受け継いだものがオレの中にある。
 そう思ったらあんまり寂しいとか思わなくなったよ」

 まあ、その時すでに寂しいとか思う年齢じゃなかったのかもしれないけどな〜、と鷹貴は笑顔で話した。

 その顔に嘘はないように見えた。



「3人とも、とても両親に執着しているように見えるわね」

 由宇香さんが一言で今までの話の感想を述べた。
 だけど、その顔は今までよりも少し無表情に見えた。

「そういう物言いをするという事は、
 由宇香ちゃんはもしかして両親のことうっとうしいとか思ってる?」

 鷹貴の問いに由宇香さんは前髪をかきあげながら、
「ええ、そうね」
と答えた。

「私のパパは警察の偉い人の1人。確か役職は・・・警視監だったかしら。
 ママは外で遊んでばかりで私の相手はしてくれない。
 その辺りは神楽さんや鷹貴さんと同じね。
 だけど、私の場合はパパがその状況にとても負い目を感じているの。
 だから今の私、自分で言うのもおかしいけれどとても甘やかされているわ」

 そういえば出会ったばかりの時、由宇香さんは『はやく帰ってパパにおねだりをしたいですね』と言っていたな。

「欲しいものを思うままに買ってくれるのは嬉しい。
 でも、その見返りをあからさまに要求されるのは少しうっとうしいかな」

「見返りって何?」

 僕の問いに由宇香さんは自分で自分を抱きしめる仕草をして答えた。

「こんな感じで『パパ、ありがとう』って言って
 抱きつくようなコミュニケーションが欲しいんだと思うのよ。
 でも私にとっては何を今更って気分。
 そんな事をして欲しかったのなら私が小さい頃にしておけば良かったんだから」

 由宇香さんが不快そうな顔をした。

 いつもボーッとしている由宇香さんからは想像できない表情だった。

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