魔方陣以外に特別目を見張るものはなかったので、僕達は速やかに外に出た。
そしてギョッとした。
とても大きな城が僕達の目の前にある。
しかも異様におどろおどろしい。
高さからして四、五階建てだろうか?
この城、横幅がとてつもなく広い。
大豪邸が二、三軒入りそうな大きさだ。
さっきの小屋に至っては、この城に百数十棟入りそうだ。
建物自体は少し古めで気味が悪い。
屋根付近では何匹もの蝙蝠が飛び交い、おまけに空はどんよりと曇っている。
入りたくない。
これが僕達の第1感想だった。
「そんなこと言える状況じゃないのはわかってるよね?ほら、とっとと入った」
ドスドスとものすごい力で僕達4人を押すブン。
あの小さい体(本当に小さい。一般的な蜂の大きさだ)のどこにこんな力があるのだろうか?
ブンに押されながら、僕達はズルズルと魔王城に近づいていった。
「わかった。行く!行くからもう押すなって」
鷹貴が最初に降参して、自ら歩き始めた。
その次に僕、神楽、由宇香さんと続いた。
門から城の入り口前までは何事もなく、トコトコと歩いて進んだ。
しかし、城の入り口となる扉の前に難関があった。
魔物がいる。
しかも今回は目玉ではなく、巨大な犬だ。
ああ、よだれなんかダラダラ流して、絶対あの犬狂犬病だ。
「さあ、行こう」
ブンが先頭に立って進もうとするが、その体をガシッと鷹貴につかまれてしまった。

「ちょっと待ってくれ」
「な、何?」
「あそこ以外に入り口は無いのか?裏口とかさ。
それが駄目ならあの犬をどこかに追い払う方法とか無い?」
ここに至っても及び腰な僕達。
可能な限り戦いを避けようとする心は本来なら褒められるべきものだと思うのだけど、この場面じゃただの弱虫にみえるのが辛いところだ。
「無理だよ。
城の入り口はあそこしか無いし、入るにはあの敵を倒すしかないんだから」
絶望的な答えだ。
それを聞いても、鷹貴は更にどうにか戦わずに済みそうな方法を提案した。
「それじゃあ力、この位置から強い魔法を1発あてて、あいつを倒そうか」
「遠方からの不意討ちは禁止されているからそれも無理だよ。
近づいて攻撃しない限り、敵に魔法は当たらないよ」
「だー!それじゃあどうすればいいんだよ!」
鷹貴が地団太を踏みながら吠えた。
「だから普通に近づいて戦う以外は方法が無いんだって・・・」
地団太を踏む鷹貴に、ブンがあきれながら答えた。
前々から思っていたけれど本当にこのゲームは現実感がない。
仕方が無いので必要以上に刺激をしないようにゆっくりと犬に近づいていった。
しかし、犬との距離がおよそ5メートルになると、犬がムクッと起き上がり吠え出した。
「ゥウウガウッ!ガウッワウッ!」(←怒り)
「うわぁぁぁ!」(←びびり)
全員驚いて逃げ出そうとしたけれど、見えない壁に阻まれて逃げられない。
「あ、ごめん。言い忘れてた。
この城の戦闘は逃げ出す事ができないようになってるんだよ」
「ば、馬鹿っ!重要だよ、それ。言い忘れないでよ!」
神楽がベシとブンをどつくと、ブンは地面に叩きつけられた。
神楽、ツッコミを入れる時は体格差も考慮した方が良いと思う。
背後のどつき漫才はさておき、僕達はすでに犬との戦闘態勢に移行している。
しばし、僕達と犬は睨みあった。
「ええい、仕方ないね。行くよ!」
逃げられないことを理解した神楽がいち早くナイフを持って立ち向かっていく。
その姿は男前だ。
カッコイイ。
拍手を送りたくなった。
その姿に勇気付けられた男性陣、つまり僕達も杖と金袋を持って犬に立ち向かっていった。
ザシュッとナイフでの神楽の一撃。
ドゴッと金袋での鷹貴の一撃。
そしてポコンと杖での僕の一撃。
それで、それだけで犬はバタリと倒れ、そして消滅した。
「え?」
あまりのあっけなさに目を丸くする僕達。
「すっかり忘れているみたいだけど・・・君達レベル99なんだよ。
最強状態なんだからね」
ブンのつっこみに僕達はポンと手を叩いた。
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