難なく城の中に入り、魔王を目指して進む。
その途中に僕達を阻む敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵・・・・・・敵。
「多すぎじゃ〜!」
ついに鷹貴がキレた。

だけど当然だ。
10歩も歩かない内に次々と敵に遭遇してしまい、全く先に進めない。
入城してから数十分経つけれど、未だに入り口の扉が見える場所にいる。
敵自体はそこまで強くないので1、2回の攻撃で倒せる。
だけどこんなに数が多くてはどうしようもない。
簡単に倒せるとはいえ、さすがに少し疲労してきた。
約1名を除いて、だけど。
その約1名は戦う僕達3人の輪に囲まれた場所でコックリコックリと船を漕いでいた。
「由宇香も何か手伝えって!」
今度は神楽がその約1名にキレた。
「そんな事言われても、私は誰かが怪我をしないと手伝いようがないわ」
と言いながら由宇香さんはゴシゴシと目をこすった。
「そういう問題じゃない!そう思って何も手伝いをする気がないのに腹が立つんだよ!」
ついに口論が始まってしまった。
しかも敵が次々に襲い掛かるという修羅場で。
神楽は今までの由宇香さんに対する鬱憤が爆発してしまっている。
敵を切り倒しながらも、顔は由宇香さんの方向を向いて口喧嘩だ。
ある意味すごい。
すごいけれど、今は口喧嘩をしている場合ではない。
これはどうすればいいのだろうと迷い、鷹貴の方をチラッと見た。
すると、鷹貴も僕を見ていた。
敵をポコポコと殴り倒しながら、僕は鷹貴に近寄ってみた。
「まあ、神楽ちゃんの気持ちはわからんでもないんだがな」
と鷹貴は1人言のように呟いた。
確かに僕もわからなくはない。
由宇香さんは敵と戦う能力が無い。
だから、今までも実質3人で戦ってきた。
戦っている間に由宇香さんは暇を持て余し、眠っている事が多いのは前も言ったと思う。
その居眠りの光景を見た時の心境ははっきり言って複雑だ。
戦う力が無い事は重々承知だが、だからといって人が苦労して戦っている間に眠るのはマズイだろう。
「それはそうだけど、この状況で喧嘩は駄目だと思う」
僕がごく平凡な答えを返すと、鷹貴もウンウンと頷いた。
「オレもそう思う。そこでだ、力。2人の仲裁をしてくれ」
「え、ええ?僕が?」
僕の発したすっ頓狂な声に動じず、鷹貴はウンウンと頷いた。
「おそらくオレじゃ神楽ちゃんは止められん。力の方がまだ止められる確率が高いだろうな」
「ど、どうして僕の方が止められる確率が高いなんて・・・」
「たぶんだよ、たぶん。ホラ行け、力!」
鷹貴は神楽がいる方向にどーんと僕を押した。
もしかして面倒な事を僕に押し付けただけではないだろうか。
僕はおそるおそる神楽と由宇香さんに声をかけてみた。
「ちょ、ちょっと神楽に由宇香さん。今は喧嘩をしている場合じゃ・・・」
「うるさい!」
「ちょっと黙ってて!」
「・・・はい」
とりつくしまもなかった。
「女同士の諍いを男が止める事はできない。お約束だな」
鷹貴が呟いた。
一体何のお約束なんだ?
こんな事をしている間にも続々と新しい敵がやってくる。
この状況でも未だに言い争う女性陣。
その争いを止められない男性陣。
・・・情けない。
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