2階に上り、ようやくひと息ついた。
敵も現れはするけれど、1階のあの数とは比べものにならない程少ない。
「やっと休憩できるな」
「うん、そうだね」
ウ〜ンと唸りながら、鷹貴は思いっきり背伸びをした。
それを真似して僕も同じように背伸びをしてみた。
「おいおい、オレの真似すんなよ」
と言って鷹貴はハッハッハッと笑った。
僕も同じくアハハと笑ってみた。
・・・。
シーンという擬音が聞こえそうな程、背後からの反応は何も無い。
この雰囲気を覆すのはやはり無理だったか。
現在、僕達の背後の雰囲気が最悪である。
オーラという物が目に見えるのならば、この一帯は黒いオーラに包まれて周囲が全く見えないだろう。
それぐらい雰囲気が悪い。
僕達の背後に位置しているのは神楽と由宇香さん。
雰囲気が悪くなっている原因は当然先程の口喧嘩だ。
お互い別の方向を見て、顔も見合わせない。
その険悪な空気を背後に感じ、背中に冷や汗をかく僕と鷹貴。
ものすご〜く気まずい。
気まずいから鷹貴との会話で無理に笑ってみたのに、逆効果だった。
背中の冷や汗が増量した気がする。
この空気に耐えられず、先程の会話以降は全員無言になってしまった。
「ココは罠の階なんだよ。
巧妙に隠されている罠を避けて上の階を目指す事を要求されるんだ」
この雰囲気を打ち消そうと、努めて明るくブンがこのフロアの説明をした。
「あ、そう」
「そうなの」
無駄だった。
それでもめげずにブンは説明し続けた。
「2階は罠を発見する能力に秀でた盗賊が大活躍するんだよ。
このフロアの主役は神楽だね」
「ふぅん」
身も蓋も無い。
「あぁ!」
突然鷹貴が場違いな大声をあげた。
みんなが鷹貴の方を向く。
今まで見た事が無い程、鷹貴の瞳はキラキラと輝いていた。
「どうしたの?」
僕が訊ねると、鷹貴は3階へ向かう通路の真ん中を指さした。
「あそこに札束がないか?」
僕は鷹貴の指した先を目で追った。
確かに通路の真ん中に札束のような物が落ちている。
しかしどう考えたって怪しい。
「本当に札束かどうか見てくるよ」
僕が怪しいと口に出す前に鷹貴が札束に向かって走り出した。
金に目がくらんで冷静な判断ができなくなっているようだ。
札束の近くまで鷹貴が近寄ると、足元の床がガパッと抜け落ちたのは言うまでもない。