3階に到着した時、僕達の雰囲気は更に悪化していた。

 背後の三人から険悪な空気を感じる。

 う、後ろを振り向く事ができない。
 背中の冷や汗がダラダラと流れている。

 ああ、昨日の夜の和気藹々としたムードが遥か昔のことのようだ・・・。

 その後、僕達は1階と同じ過剰な戦闘状態に陥った。
 1階の時は10歩以内に1回の戦闘だったけれど、ココは5歩以内に1回の戦闘だ。

 しかも敵が微妙にパワーアップしていて4、5回攻撃しないと倒せない。

 おまけにココ3階は道が迷路のように入り組んでいて、何回も行き止まりに突き当たった。
 その度に引き返し、また敵と遭遇して・・・を何回も繰り返した。

 4階への階段をやっと見つけたとき、僕達はいつものようにくたびれ果てて声もだせない状態だった。

 これではレベル99の最強状態の意味がない。

 というかこの城、最強状態じゃないとゲームオーバーになるんじゃないだろうか。
 敵があまりにも多すぎだ。

「そ、そういえば力・・・魔法・・・一回も使わなかった・・・のはどう・・・して?」

 ハアハアと息も絶え絶えに神楽が訊ねてきた。

 険悪な状態なのは神楽と由宇香さん、神楽と鷹貴であって僕には関係がない。
 だから他の3人は僕には普通に声を掛ける。

「魔王との・・・戦いに・・・魔法はできるだけ・・・温存して・・・おいたほうが・・・良いって、
 ブンに・・・教えて・・・もらったんだ」

 僕もゼエゼエ言いながら答えた。
 声を出すのが本当に辛い。

「敵を追い・・・払える魔法とかあれ・・・ば良かったね」

 先程から荒んでいる場を和ませようと普段は言わない軽い冗談を言ってみた。
 ついでに笑顔も浮かべてみたけれど、疲労でたぶん引きつった笑顔になっていたと思う。

 すると、
「あるよ。その魔法」
とあっさりブンが答えた。

「へ?」

 全員が固まる。

「自分より弱い敵が近寄らなくなる魔法はあるよ」

 ブンにそう言われて、僕は慌てて懐から魔法の本を取り出した。
 パラパラとページをめくり、ブンの言っていた魔法を探す。

 ・・・本当にあった。

 この魔法を使えば自分よりレベルの低い敵が接近しないようになる。
 僕達はレベル99という最強状態なので、この魔法を使っていれば、敵は誰も近づく事ができなくなっていた。
 これさえ使っていれば、一階も三階もあそこまで苦労することはなかったのだ。

「・・・」

 後ろから僕の本をのぞいていた3人は無言だ。

 だけど分かる。

 明らかに彼らは、
『ブン、何故それを言わなかった。そして力、どうしてお前はこの事に気がつかなかった』
と言っている。

「ご、ごごごめん。僕、こんな魔法があるなんて・・・」
と謝っても後の祭りだ。

 先程まで背後の3人はどす黒いオーラを纏っていた。
 しかし今は怒りによって、鮮烈な赤いオーラを放出しているのを感じた。

ガタガタガタ

 レベル99になった時に使用可能な魔法が大量出現した事は知っていた。
 だけど、現実世界では何の役にも立たないからと僕は魔法の本を読まなかった。

 昨日の僕に今すぐ読破しろと忠告しに行きたい!

 大体柄にもなく軽い冗談なんて言わないでおけば、この事実をみんなが知ることもなかったんだ。

 僕は馬鹿だなぁ。
 アハハ・・・。



 現実世界に戻るための鍵、魔王の待つ4階に僕達はやっとの思いでたどり着いた。
 そう、たどり着いたのは良い。

 しかし、たどり着いた四人を取り巻く雰囲気が非常に悪い。

 最終的にはこの不穏な空気に僕とブンも巻き込まれてしまっていた。
 自業自得といえば自業自得なんだろうけど。

「良い?このドアを開けるよ」

 ドアを開けると魔王との最後の戦いが始まる。

 だから、一応了承をとりたかったのだけど、
「・・・」
と返事がないためどうしようもない。

 全員が僕と顔を合わせてもくれない。

 こんな雰囲気のまま最終戦に入って本当に大丈夫なのだろうか?

 一抹の不安を感じながら、僕は魔王の部屋へと通じるドアをゆっくりと開けた。

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