部屋の中は真っ暗だった。
魔王がどこにいるのか全く分からない。
こんな場所で最終戦を開始するのだろうか?
不安を感じて立ち尽くしていると、僕を押しのけて神楽が足を踏み入れた。
神楽は何も言葉を発しなかったけれど、
『ここまで来てビビッてどうするの。進むしかないでしょうが』
と背中が語っている。
本当に男前だ。
神楽が入室した瞬間、神楽の近くに小さな光が2つ灯った。
それは神楽の左右にある2本の蝋燭の明かりだった。
明かりが突然現れた事に驚いて、神楽の足は1歩踏み入れたまま固まっていた。
だけど、神楽はほんの少し躊躇しただけで、またすぐに歩き出した。
1歩歩く毎に神楽の左右に蝋燭の火が灯る。
ズンズンと進む神楽の後を僕が追い、その後を鷹貴と由宇香さんが追った。
しばらくすると神楽と並ぶように灯っていた蝋燭は彼女を追い越し、彼女の歩みとは関係なしにポッポッと灯り始めた。
そして最後に四階全てを照らすような強い光が上からパッと射し込んだ。
いきなり視界が明るくなり、僕は目を細める。
やがて僕の目が周囲の光量に慣れてくると、周囲の状況がよくわかってきた。
この部屋は四階の建物そのものの大きさであり、そのほとんどを蝋燭が導く細い直線の道が占領している。
蝋燭の向こう側にも広大なスペースはあるが、そのスペースには物も何もなく遥か向こうに壁と窓があるだけだ。
足元にはこの細い道に沿って、高級そうな赤いカーペットが敷かれている。
「これってドラマでお金持ちの人が車から出る時にバーッと下に敷かれるものかしら?」
と由宇香さんが誰に言うでもなく呟いていた。
延々と続く蝋燭の道。
これは四階の端から端まで続くのかもしれない。
でも、外からこの城を見た時、最上階は下の階よりもかなり小さく見えていた。
だから、この道も後少しで終わるだろう。
その予想は的中していて、終点が見えてきた。
終点には王座があり、そこに座りこちらをじっと見ている人物がいる。
二十代後半ぐらいだろうか。
黒々艶々とした長髪で灰色の瞳の人がニヤニヤとこちらを見つめていた。
口元からは鋭い八重歯がのぞいている。
妖精の村の住人のように耳は伸び、本によくある悪魔のように頭から角が生えていた。
顔形は整っていて美形。
筋肉質だが細身な体の上にピッチリとした黒い皮のズボンとやはりピッチリとした白のシャツ。
その上に黒い毛皮のコートを羽織っていた。
黒く透けるショールを身にまとい、彼は優雅に座っていた。