羽を使い、宙に浮く魔王。
その位置は地面よりも天井に近く、僕達の頭の遥か上だ。
魔法という飛び道具のある僕は良いけれど、その他の3人はどうやって攻撃すればいいのだろうか?
そんな事を考えながら、僕は上空の魔王をボーっと見つめていた。
すると、無言のまま神楽が魔王の王座に向かって全力で走り出した。
王座に向かう事に何の意味があるのだろうと思ったけれど、神楽の次の行動でその謎は解けた。
神楽は王座をトンと踏み台にして、真上の魔王の所まで跳んだ。
このとんでもない跳躍力もゲームの中だから可能なのだろうな。
これなら神楽も魔王に攻撃ができる。
神楽は手に持ったナイフを振るい、魔王の服と肌に軽く傷をつけた。
そして、神楽はストンと地面に着地した後、魔王を見つめた状態のままでスッと僕達の所に戻ってきた。
身軽だなぁ。
「やっぱり人間の姿した奴に切りかかるのって、すごく勇気がいる」
「あ、やっぱりそうなんだ。それは僕も思った」
独り言を呟く神楽に、つい何事も無かったかのように声をかけてしまった。
神楽も何か返事をしようとして、現在僕に憤慨中である事を思い出してフンとそっぽを向いた。
今までの敵はどう見ても人間とは思えない怪物のような姿形をしていた。
それでも、生物を傷つけてしまうというためらいがあった。
だけど、対魔王では「人間を傷つけるのは犯罪行為」という常識も僕達の壁となる。
かと言って、その常識を覆すわけにもいかない。
そんな事をすれば、現実世界に戻った後にとんでもない事を起こしてしまいそうだ。
この魔王は、その意味でも倒しにくい敵だ。
昨日山を吹き飛ばした最強の魔法を僕が使えば、1撃で倒せるかもしれない。
仮にその魔法を使って魔王を倒したとする。
その時、この場にちぎれた腕とか残骸が残っていた場合が不安なのだ。
そうなってしまえば現実世界に戻った後、絶対に僕は罪悪感に苛まされる。
それは絶対に嫌だ。
僕は健全な精神のままで現実世界に戻りたいのだ。
だから僕は魔王に向けて、体が吹っ飛ばないと思われる程度の魔法を放った。
「何してるんだ、一番強いの使えよ!」
「そうよ、何の為に今まで魔法使わなかったの!」
「あんた馬鹿じゃない!」
予想はついていたけれど、非難ごうごうだ。
悲しい。
どうして僕は魔法使いなんてものになってしまったのだろう。
僕の攻撃が命中すると、魔王は僕達の頭上近くまで高度が落ちた。
神楽の攻撃を受けた時も高度が落ちたけれど、少し時間が経つとまた元の位置に上昇した。
どうやら何らかの攻撃を受けると、普通の直接攻撃が可能な場所まで落ちてくるようだ。
なるほど。
つまり、飛び道具攻撃と直接攻撃を交互に行う事で確実に倒せるようになっているのか。
僕達の間には変わらず険悪なオーラが充満していたけれど、この情報を話さない訳にはいかない。
呼んでも来てくれるのかはわからないけれど、とりあえず僕はみんなを手招きで呼び寄せた。
僕に不満はあっても、魔王を倒したいのは全員同じらしく、しぶしぶながら僕に近づいてきた。
そこで魔王の推測した特性を説明し、飛び道具攻撃と直接攻撃を交互に行う事を提案した。
すると、全員思ったよりもすんなりと賛成してくれた。
もしかして、みんなそこまで怒ってない?
僕がほんのわずかな希望を持ち、キラキラと輝いている間に鷹貴が金袋で魔王を殴りに向かった。
魔王は鷹貴の身長ならギリギリ攻撃が届く位置に浮いていた。
その時、僕は神楽がジッと自分の手を見つめていることに気がついた。
おそらく、例の盗賊特有の技能で魔王から何かを盗んできたのだろう。
また嫌がられるかもしれない事を承知で、僕は神楽に声をかけた。
早く現実世界には戻りたい。
だけど、この気まずい状態のままでは戻りたくなかった。
「神楽、何か盗ってきた?」
神楽の手を覗くと、そこには黒い三角形の布があった。
「これは・・・」
と言いながら僕の額から嫌な汗がダラダラと出てきた。
これはもしや・・・。
「あ、それ『魔王のビキニパンツ』だ」
僕の後ろでのぞいていたブンがサラッと言った。
神楽は地面に『魔王のビキニパンツ』を叩きつけた。